すきなひとにはちゅってする

千速に投げキスを教えて貰ってからというもの、何が楽しいのか投げキッスにハマってしまい、事ある毎に「けんちゃん、んちゅ!」と可愛らしく投げキスをしてくる幼女に一体誰が耐えられようか。

「かわいいんだけど」と机に突っ伏した萩原の頭を小さな手が「けんちゃんおきてぇ」とぽふぽふ叩く。「俺の事どうしたいの、香澄ちゃん」と顔を上げれば「すきなひとにはちゅーするの!」とドヤ顔が返ってくるから「……そっかぁ」と萩原は考えることを止めた。だって可愛いから。可愛いは正義なのだ。

そんな中、やって来た松田が「何してんだ、お前ら」と首を傾げるから「香澄ちゃん!松田来たよ!」と萩原が待ってましたと言わんばかりの勢いで立ち上がる。首を傾げる松田に向かって「じんぺーくん!」と立ち上がった幼女が「んーちゅ!」とたっぷり溜めを作ってから小さな手を唇から離す。

あまりにも可愛すぎる攻撃に松田の思考は一瞬固まって、それから「……はぁぁああ…どこで覚えてきたんだそんなの…」としゃがみ込んだ。「あのね!ちーちゃんがね、すきなひとにはちゅってするのって!いってた!」と満面の笑みでたったか松田に駆け寄った小さな体をぎゅうっと抱きとめた松田は「千速かよ」と眉間に皺を寄せた。

そんな松田に「じんぺーくんはかすみちゃんすきじゃない?」と幼女がこてん、と首を傾げるから、その要領を得ない質問に「は?」と松田も首を傾げる。

「香澄ちゃん的には、ちゅーは好きな人にするものって認識なのよ。だから自分は嫌われてるからちゅーしてもらえないのか〜って思われてるぜ」と萩原から助け舟を貰って、ようやく理解した松田は照れ臭そうにがりがりと後頭部を掻いてから「ちゃんと好きだよ」とぶっきらぼうに告げると幼女の頭のてっぺんにちゅ、と唇を落とす。

「ひゃあ〜!じんぺーくん!すき!」と大はしゃぎで首に腕を回して抱きついてくる小さな体をぎゅっと抱き締める。「なぁに照れてんだよ」「うっせ」と文句を言い合う二人をきょろきょろと交互に見た幼女が「けんちゃんとじんぺーくんはちゅーしないの?すきじゃない?」と爆弾を落とした。

「ん〜っとね、ちょっっと待ってね。……ちょっと陣平ちゃん、これどうやって説明したらいいの!?」「知るかよ!俺に聞くな!つーか事の発端は千速が余計なこと教えたからだろーが!お前の姉だろ!お前が何とかしろ!」「いや俺のせいじゃなくない!?!?」と別の意味で大騒ぎになるし「お前ら何騒いでるんだ…?」ときょとん顔で声をかけてきた諸伏ももれなく巻き込まれることになった。
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