一番は自分自身への怒り

施設内のありとあらゆる場所を探したけれど幼女は全く見つからなくて苛立ちだけが募る中、伊達が建物の裏手に続く細道を発見する。向かってみれば、地下への階段があって思わず萩原たちの背すじがゾッとする。

恐る恐る階段を下れば、明らかに人工的に設置されたライトと、ギリギリ人がすれ違えるくらいの細さの道があって、奥からは小さな声が聞こえてくる。「っ、まさか…!」と目を見開いた萩原が「香澄ちゃん!香澄ちゃんいる!?いたら返事して!」と叫びながら駆け出す。

通路を進んでいくと、泣き声はどんどん大きくなっていって部屋とも言えない、扉が付いた小さなスペースが現れる。ひっくひっくとしゃくりあげる声を、小さな子供とは思えないような押し殺すような泣き方を、萩原はよく知っていた。

扉をゆっくりと開ければ部屋の隅で小さく蹲って泣いている、女の子の姿。萩原の目から涙が零れて、震える声で「香澄ちゃん、」と名前を呼べば涙に濡れた真っ赤な瞳が萩原を映して、くしゃりと顔が歪む。

「けんっ、ちゃ…っけんちゃんっ、ぅわぁぁああん…!」と泣きながら立ち上がって萩原の方へと向かってくる体を、萩原が迎えに行く。力一杯抱きすくめれば胸元に顔を埋めた幼女が大きな声を上げて泣く。

何度も萩原の名前を呼んで、泣きじゃくる幼女を抱き締めながら萩原の目からも涙が溢れていた。「ごめんね、…っ、ごめんね、遅くなってごめんね…!怖かったよね、さみしかったよね…っごめん、ごめんね…!」と幼女の体を抱き締めて何度も、何度も恐怖に震える体を撫でる。

前に会った時より小さくなった体は、驚くほど軽くて、全身が冷え切っていた。「もう、大丈夫だからね。一緒に帰ろう、もう…っ、もう大丈夫だから」と幼女の体を抱き上げてゆっくりと部屋を出る。

「萩原!!香澄ちゃんは…っ、いたのか…!よかった…!」と反対側から走って来た伊達が萩原の腕の中で泣きじゃくる小さな体を見てホッと安堵の息を吐く。「ごめん、俺香澄ちゃん探すのに必死で全然班長たちのこと気にしてなかった」と苦笑いをする萩原に「いや、それはいいんだ。それより、早くここを出るぞ」と伊達が眉間に皺を寄せて表情を強張らせる。

「…何かあった?陣平ちゃんがいないってことは…爆弾でも見つけちゃった感じ?」とおどけたように言えば「大正解だ。諸伏に連絡を取ろうと思ったんだが、この場所は電波が届かないみたいでな。松田が、バラしてすぐに合流するから先に上がってろってよ」と伊達が出口に向かって歩きながら言うから「なるほどね。香澄ちゃんもいるし、ここは一旦陣平ちゃんに任せた方がよさそうかな」と肩を竦めた萩原も歩き出す。

腕の中で未だかたかたと震える小さな体を落ち着かせるようにそっと撫でて「香澄ちゃん、一緒におうちに帰ろうね。もう大丈夫だからね」と再び声をかければぐすぐすと鼻を啜りながらも確かに頷いてくれる。

降りてきた階段を上っていれば「萩原!班長!良かった…通信が途絶えたから何かあったのかと思って心配したよ」と諸伏が地上から声をかけてくる。そして萩原の腕の中の小さな姿を視界に入れて「香澄ちゃんも!良かった、無事だったんだね」とふわりと表情を緩ませる。

それから一人姿の見えない松田の身を案じて「松田は?」と首を傾げる。かくかくしかじか、状況を説明した伊達に諸伏はきゅっと眉間に皺を寄せた。「やっぱりゼロの言ってた通りだ。あんな杜撰な管理体制、何かあっても大丈夫って意味だったんだ」と顔色を悪くした諸伏が萩原たちと入れ違いで階段を降り始める。

「俺は松田を連れてすぐに戻る!先行ってて。絶対合流するから」と頷いた諸伏に頷き返して萩原と伊達が駆け出す。腕の中の小さな体を一刻も早く病院に運びたい気持ちと、こんな目に遭っている幼女よりも己を優先した両親や団体への怒り。

そして一番は自分自身への怒りだった。腹の奥から沸騰するような気持ちをぐっと押さえて萩原は施設の出口へと足を進めた。
backtop