「見掛け倒しでクソも面白くねぇ爆弾だったわ」とつまらなさそうな顔で諸伏と共に戻って来た松田が萩原の腕の中の幼女を見てホッと息を吐くけど、手が真っ白になるまで力一杯萩原の服を掴む手に堪らず眉間に皺が寄る。
「ハギ、」と松田に呼ばれて幼女に視線を移した萩原は小さく頷いてから何も言わずに幼女の背中をそっと撫でる。少しだけ握り締めていた手の力が緩むけれど、萩原が背中を撫でる手を止めると、また力一杯握り締めて震え出す。
引き離されることに怯えているのだろう、と萩原は幼女を抱き締める手に力を込めた。「香澄ちゃん、これから車に乗って、病院に行くからね」と頭を撫でながらそっと顔を覗き込めば真っ赤な目が萩原を見て「けんちゃん、いっしょ…?」と不安げに揺れる。
「もちろん。ずっと一緒だよ」と笑いかければ安心したようにこくりと頷いて、また萩原の胸の中に顔を埋める。あやす様に背中を叩いて車に乗り込み、幼女を膝の上に乗せる。「香澄ちゃん、こっち見て」と背中をとんとん、と叩けばそろそろと顔が上がる。
「元気になったら、一緒に遊園地行こうね。アイス食べて、ジュース飲んで、いっぱい遊ぼう。動物園も水族館も、いっぱい遊びに行こうね」と背中を撫でていた手を離して、小さなまろい頬を両手で包む。幼女の瞳に溢れんばかりの涙の粒が浮かんでぽろぽろと零れ落ちる。
「怖かったね、寂しかったね。もう、大丈夫。けんちゃんが来たからね。もう怖くないよ、寂しくないよ。ずっと、ず〜っと一緒。もう、大丈夫」と額をこつんと重ねてゆっくりと言葉を紡ぐ。
甘えたがりで、寂しがりで、ぎゅってするのが大好きで。でも、賢い子だった。賢すぎたのかもしれない。一丁前に気を使って、遠慮して。
もう、そんな事しなくても良いんだよ、と。泣いていいよ、甘えていいよ。全部受け止めてあげる、大丈夫。そんな気持ちが伝われば良いと思った。
「寂しいのも、怖いのも、もう我慢しなくていいよ。いっぱい泣いて、いいんだよ」と小さな体をゆっくりと抱え込む。「ひっ、く…ふぇ、おかぁ、さぁあん…っ、おと、ぉさぁあ、ぅわぁぁぁあん…!」とダムが決壊したかのように声を上げて泣きじゃくる幼女を萩原は力一杯抱き締めた。
地下で見つけた時とは、全く違う泣き方。自分を置いていった両親を呼んで泣きじゃくる幼女は、年相応の子供に見えて、少しだけホッとした。幼女が安心して、心置きなく涙を流せる場所に、なれていることが嬉しかった。
沢山泣いて疲れたのか、こくりこくりと船を漕ぎ始めた幼女の背中を叩いて寝かしつけながら萩原は「……なぁ、松田。俺、香澄ちゃんの家族になろうと思う」と小さく呟いた。「は?家族って、」と目を瞬かせた松田を萩原はまっすぐに見つめ返す。
「施設送りになんて、絶対したくない。俺の子供でも、俺の妹でも、何でもいい。もう、この子を一人にしたくない」と幼女を見つめる萩原の目は、我が子を見守る親のそれだった。幼いころから萩原と一緒にいた松田が、萩原の本気の思いに気付かないはずが無い。
ふっと表情を緩ませて微笑んだ松田は「ゼロに何とかしてもらおうぜ」と萩原の腕の中で眠る小さな頭をゆっくりと撫でて、この先に待つであろう幸せを願った。