あれよあれよと言う間に降谷に匿われていた諸伏は後からノックバレに伴い命を狙われていたことをバラされてゾッとした。それから数日が経ち、助けてくれたのはかつての旧友たちが可愛がっている幼女だと聞いて、諸伏は全く理解が追いつかなかった。
「え?なんて?」「だから幼女だって」「ごめんゼロ、もう一回」とあまりにも意味の分からない説明に、諸伏の頭の上には幾つものはてなマークが浮かぶ。「はぁ……いいか、もう一度説明するぞ」とため息を吐いて説明を始めた降谷だが、その中身は自分でも何言ってるんだお前とツッコまずにはいられない内容だった。
「つまり俺の命の恩人が幼女ってこと?」と首を傾げた諸伏も「そういう事になるな」と頷いた降谷も、最早難しく考える事を止めていた。それから数週間後、その幼女の口添えによって萩原と松田も命を救われていたのだと言う衝撃の事実が明らかになった。
その子供は一体何者なのかと疑問に思った降谷が調べてみたが、叩けど叩けど出てくるのは、その子供が至って普通の家で育った普通の女の子であることだけ。そして、お礼を言う為という名目で出会った子供は、やはり疑わしさなんて一ミリも感じさせない。
「あーー!もろぅっしゃん!」と目を輝かせて駆け寄ってきた小さな体が諸伏の足元にぺたりと張り付く。「また言えてねぇし」と笑った萩原を見てから諸伏が足元に視線を下ろせば「もろうしゅ、ふし、もりょっししゃん!ばーんしてない?いたいくない?」ときゅるきゅるとしたまん丸の瞳に見つめられる。
そっと膝を折って「うん。君のおかげで、ばーんしなくて良くなったんだ。ありがとう」と頭を撫でてあげれば、ぱちぱちと目を瞬かせてから、小さな手で諸伏の胸元をぺちぺちと叩き始める。
むー、と唇を尖らせてから「ほんとだ!ばーんしてない!よかったねぇ」と表情を綻ばせた小さな天使様に諸伏の胸がきゅうっと苦しくなる。「……うん。本当に、よかった」と小さな体を抱き締めれば「もりょっししゃんないてる!」と驚きの声が響いたあと「えんえんないよ、だいじょーぶ!だいじょーぶよ!」と明るい声が聞こえてきて、小さな手がくしゃくしゃと諸伏の髪の毛をかき混ぜる。
「ふ…っ、ははっ、ありがとう」と何度目かのお礼と一緒に零れた笑顔は、諸伏にとって暫くの間忘れていた平和の証明だった。