ほんの一瞬、目を離しただけだった。同じ店内にいて、同じ棚の前。しゃがみ込んでキラキラのシールを見つめていた幼女に近付く怪しい影。「やぁぁああ!!」と響いた悲鳴に油断していた萩原の肩がビクリと跳ねた。
足にぺたりと張り付いて、大粒の涙を零す幼女の姿に「どうしたの!?」と慌ててしゃがみ込めば、小さな体が飛び込んでくる。「やっ、やだぁぁ!けんちゃ、けんちゃぁぁ…!」としがみついてくる体を抱き上げて、あやす様に背中を撫でれば、どこかから刺さるような視線を感じる。
「ど〜したのよ。ほら、大丈夫大丈夫。けんちゃんここにいるよ」と幼女を抱き上げてゆらゆら揺らせば「ぅぇっ、ひっく、けんちゃん…っいっしょ、いてぇ…」と泣きすぎて真っ赤になった目が萩原を見る。
「ちゃんといるからね。大丈夫だよ」と涙でべしょべしょになった顔をハンカチで拭う。ちらりと視線を向ければ、こちらを…と言うよりも幼女を見て悔しげに顔を歪める男の姿が萩原の目に入る。
「どしたの、急に。怖いことでもあった?」と幼女に尋ねれば「しらない…っ、おじさんっ、いっしょにいこって、」とぽろぽろ涙を流すから「ッ、ごめんな。怖かったよな、大丈夫だから」そう言っていつもよりも少し強めに幼女の体を抱き締めれば、首に回された小さな腕にもきゅううっと力が入る。
「しらないひとにはっ、ついてかなかったよ…っ、えらい…?」とひっくひっくとしゃくりあげながら言う幼女に「ん、超偉い。天才。すっっげぇいい子。教えてくれてありがとな」と頭を撫でてほっぺにちゅっとキスを送れば「ふひ、えへへ、」と涙を浮かべながらもふにゃふにゃと表情を緩ませてくれた。
抱っこはしたまま、連絡を取るフリをしながら男の写真を撮影し、外見の特徴や買い物に来ていた店舗名と時間を手早く送信する。宛先は勿論、敵に回したら最もヤバい奴らの所だ。
「いい子の香澄ちゃんは、今日はおやつの他にアイスも買っちゃおう!」と笑いかければ「〜〜っ!あいす!あいすね、香澄ちゃんね、」と興奮したようで話し始める。恐怖で涙に濡れた瞳は、もうどこにも無い。
安堵の息を吐きながら、萩原は幼女の支離滅裂な興奮冷めやらぬアイストークに耳を傾けた。