すきだから、いちごあげる

萩原から連絡を受けた降谷と諸伏の行動は迅速だった。松田と伊達に指示を出して当該箇所が映るカメラを確認、犯人を特定。「更に詳しく調べたところ、前科しかない男でな。助かったよ、ハギ」と降谷が萩原を見て困ったように笑う。

「まあ結果オーライって感じだけど、香澄ちゃんが怖い思いをしたことに変わりはねぇからなぁ」と手放しに喜べない萩原の隣で「けんちゃんうれしくない?」と話を全く理解していない幼女が首を傾げる。

「嬉しい気持ちと嬉しくない気持ちが半分こかな〜」と笑った萩原に「そっかぁ〜たいへんねぇ〜」なんて返事が帰ってくるものだから降谷は思わず吹き出した。一体どこでそんな言葉遣いを覚えてくるんだ。

あの日の出来事は幼女の中で大きなトラウマにはなっていないようだと、降谷は萩原から聞いていた。本人が引きずってない以上、こちらとしても無闇矢鱈に思い出させたくは無い。

が、怖い思いをしたであろう、この小さな女の子をどうにかして甘やかしたいと思ってしまうのは致し方ない。「香澄ちゃん、ケーキ美味しい?」と降谷が声をかければ、照れたように頬を赤くしながら「おいしいよぉ」と幼女の頬がとろりと緩む。

「あのね、香澄ちゃんね、いちごすきなの」ともじもじしながら降谷に話す幼女に「いちご、美味しいもんね。僕も好きだから、おそろいだ」と降谷が頭を撫でれば「えへへ、香澄ちゃんね、れーくんもすきだから、いちごあげる」と小さなフォークに刺さったイチゴが降谷の方へと向けられる。

「本当にもらっていいの?」と降谷が目をぱちぱち瞬かせれば「うん!」と満面の笑みで幼女が頷く。が、先日同じことをして丸々1個いちごを貰った松田がギャン泣きされていたと萩原から聞いている降谷としては「嬉しいな。じゃあ折角だから半分こしよう。僕と一緒に食べてくれる?」と提案する他ない。

大好きな降谷との半分こに心を踊らせた幼女が「うん!」と頷いたことをしっかり確認して、いちごをフォークで半分こにする。「れーくんあーん!」といちごを差し出してくれる幼女からありがたくいちごを頂き、同じようにフォークで刺したいちごを幼女の口元に近付ける。

「香澄ちゃんも、あーん」と言えば小さな口の中に小さく切られたいちごが消えていく。「美味しい?」と幼女の口の端に付いたクリームを拭いながら萩原が聞けば「おいしい!」とご機嫌な様子で幼女が笑う。

「良かったなぁ。れーくんと大好きなイチゴ半分こできて」と小さな頭を撫でれば「うん!でもね、けんちゃんもすきだからね、こんどはんぶんこしよ?」と口元に手を添えてこそこそ話をするように顔を近付けてくるものだから、あまりの可愛さに「うん。半分こしようね、絶対」と真面目な顔で萩原が返す。

「おいおい…」と呆れた様子の降谷だったが、萩原と一緒にきゃらきゃらと楽しそうに笑う幼女の姿を見て、本当に大事に至らなくて良かった…と、降谷はほっと息を吐いた。
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