誰一人怪我をせずに済んだ

※痛い表現アリ※いろいろ注意※

皆で遊びに来てる時に「おい、そこの女。こっちに来い」って人質に選ばれてしまった香澄ちゃん。「俺が代わりに人質になる」って香澄ちゃんを隠すようにして萩原が前に出るけど拒否されてしまう。

「ちんたらしてんじゃねェ!!さっさと来いって言ってんだろ!!」って叫んだ犯人が天井に向かって銃を撃つから悲鳴が上がって、香澄ちゃんを行かせるのは絶対に嫌だけど、要求を飲まずに無差別に銃を撃たれたりするのも絶対に阻止しないといけなくて、警察学校組の皆にとっては究極の選択。

香澄ちゃんの手をぎゅって力いっぱい握り締める諸伏の隣でごくりと唾を飲み込んだ香澄ちゃんが一歩前に出る。「ッ、ダメだよ。香澄ちゃん」って諸伏が声を上げるから全員香澄ちゃんが何をしようとしてるのか分かっちゃって引き止める。

けれど「だめ…っ、だって、このままじゃ関係無い人たちまで怪我しちゃう」って泣きそうな顔で香澄ちゃんが言うから「お前だって関係無い人だろうが…!」って松田が悔しそうに顔を歪める。

震える足で犯人にゆっくりと近付いていく香澄ちゃんを見て手のひらに血が滲むほど拳を握り締めるけど、どうにも出来ない。首に腕を回されて頭に銃を突き付けられた香澄ちゃんが今にも倒れてしまいそうな真っ青な顔で怯える姿が痛々しくて警察学校組の皆の表情が歪む。

犯人の要求は至ってシンプルで逃走用の車と金を持ってこいと言うもの。時間までに用意出来なければ殺す、と告げた犯人が香澄ちゃんの頭に銃を押し付けるから「…っ、ひ、」って恐怖に怯える悲鳴が零れる。

ぽろぽろと涙は流すけれど、唇を噛み締めて必死に声を出さないようにしている香澄ちゃんを見て降谷が静かに頷く。大丈夫、絶対に君を助ける。そう言いたげな視線に香澄ちゃんの目が微かに見開かれる。

ぎゅっと閉じた目が再び開かれた時には、香澄ちゃんの目に宿る恐怖の色が薄くなっていて皆ホッと息を吐く。「なぁ、アンタ。一体何だってこんな事してんだよ」と突然口を開いた伊達に犯人が鋭い視線を向ける。

「この辺り一帯はもう警察に包囲されてる。逃げ切るのは不可能に近いぞ」って言われて「うるせぇ!!!」って叫んだ犯人が伊達に銃を向ける。「まあ落ち着けって。アンタの話を聞きたいだけだ。何か理由があってやってんだろ?」と両手を上げて何もしませんよアピールをした伊達が一歩前に出る。

犯人の意識が香澄ちゃんから完全に伊達に向いた、その一瞬。伊達の背後で複数の影が宙を舞って犯人が反射的に銃を向けようとするけれど、大きさやタイミングがバラバラで銃を向ける先が定まらない。

動揺した犯人に向かって駆け出した伊達が明後日の方向に向けられた銃を弾いて、香澄ちゃんの腕を引く。引いた勢いのまま、香澄ちゃんと入れ替わるようにして犯人の懐へ入り込んだ伊達が、犯人の腹に重たい一撃を食らわせる。

突然のことに対応しきれなかった香澄ちゃんが体制を崩すけれど、待ってましたと言わんばかりに萩原に抱き上げられる。あまりにも一瞬の出来事に目を瞬かせている間に、犯人は取り押さえられていて「ぁ…れ、…?えっ…?」って香澄ちゃんもパチパチ目を瞬かせちゃう。

「作戦成功だな」って笑って近付いてきた諸伏は片方の靴が脱げていて、松田は帽子、降谷は上着、と皆それぞれ先程まで身に付けていたものが無くなっていた。首を傾げた香澄ちゃんに「犯人に処理させる情報量を瞬間的に増やしたんだ」と降谷が優しく笑う。

「キャパオーバーすれば反応は遅れるからね」と肩を竦めて諸伏が笑って「お前から意識さえ逸らせればこっちのもんだ」って松田が香澄ちゃんの頭をくしゃりと撫でる。駆け付けた警察に犯人を引き渡した伊達も怪我一つ無くて「よく頑張ったな」って頭をぽんと撫でてくれる。

全員無事で、自分も無事。ようやく安心して肩の力が抜けたらぼたぼた涙が出てきて「こ…っこわ、っこわっ、かっ、たぁぁ…!」って萩原にしがみついてわんわん泣きじゃくる。「うん。怖かったよね。ごめんね、もう大丈夫だから」って萩原にぎゅうっと抱き締められて背中をとんとんって撫でられる。

「たっ、たす…っ、たすけて、くれて…っあっ、りがと…ぅ、っ、」って泣きながらお礼を言えば「お礼を言うのは僕たちの方だ」って降谷が香澄ちゃんの前にしゃがみ込んで「あの時、香澄が勇気を出してくれたから、誰一人怪我をせずに済んだんだ。本当に、ありがとう」ってぼろぼろ零れる涙を拭う。皆の優しい顔が涙腺を刺激して益々涙が溢れた。
backtop