車が行き交う大通りで背後から突き飛ばされた香澄ちゃんの体が道路に飛び出す。膝を着いて何か起きたのかわからずに目を瞬かせる香澄ちゃんに萩原が「ッ、香澄!!!」って叫んで手を伸ばす。
急ブレーキの音と、鈍い衝突音。萩原の頭から流れる血が、香澄ちゃんを絶望の底へと突き落とす。 ズキズキと痛む体をゆっくり起こせば「香澄!!ハギ!!」って松田が駆け寄ってきて「意識はあるな、痛いところは?頭打ってねぇよな?」って香澄ちゃんに聞くから「だい、じょうぶ…」ってぼんやり返す。
ざわざわと胸騒ぎがして、音が遠くに聞こえる。「香澄、いいか。落ち着いて聞けよ。お前のせいじゃない。お前のせいじゃねぇからな」って松田が何度も念を押すように言うから「なに、いってるの、」って返した声が震えてて。
松田の焦ったような顔を見て、ゆっくりと視線をズラして心臓が大きく跳ねた。「ぁ…っ、ぁ、ぁぁ…ッ、」って目を見開いて、夢であれと願って、何度も首を横に振る。目を閉じて倒れ込む萩原と額から流れる血に、香澄ちゃんの呼吸が乱れる。
伸ばされた手が、呼ばれた名前が、抱き締められた熱が、鮮明に蘇って「ぃ、やぁぁぁ…ぁぁああ、!!!研二くん、研二くん…ッ!!やだ、やだ…っやだぁぁ…!!」って倒れる萩原に手を伸ばす香澄ちゃんを松田が必死に抑え込む。
「落ち着け!!お前のせいじゃないって言っただろーが!!」って怒鳴られてハッとするけど涙は止まらなくて「わたし、わ、たし…っ、やだ、陣平くん…、研二くんがいなくなっちゃったら、どうしよぉ…っ、!」ってぼろぼろ泣く香澄ちゃんの頭を抱え込むようにして「……ッ、大丈夫だ。ハギが、この程度でいなくなる訳ねぇだろうが…!」って松田も微かに声を震わせた瞬間、小さな呻き声が聞こえて二人ともハッとして萩原に視線を移す。
「…っ、て…ぇ、な…ッ、」って眉間に皺を寄せながらも意識を取り戻した萩原に松田がホッと息を吐いて「……ビビらせんじゃねぇよ、」って小さな声で呟く。その横で香澄ちゃんが泣きながら「研二くん…!研二くん、ごめんね…っごめんね、わたしのせいで…っ、こんなけが、ごめんなさい、ごめんなさい…っ、」って萩原の手をぎゅううっと握り締める。
「香澄ちゃんのせいじゃ、ないよ。だぁいじょうぶ、おれが、香澄ちゃんをおいて、いなくなるわけないでしょ」って優しく笑った萩原がしっかりと香澄ちゃんの手を握り返すから益々涙が出てくる。
「わるいのは、ぜんぶ、香澄ちゃんをつきとばしたやつだから…っ、香澄ちゃんは、わるく…っない、よ、だいじょーぶ、」って痛みに耐えながらも香澄ちゃんに笑いかける萩原がいるから「ッハギ、もう喋んな。傷に響くだろ」って慌てて松田が止めに入る。
そんな松田にキッと鋭い視線を向けて「ぜったい、あのおとこ、にがすんじゃねぇぞ」って言うから松田は目を見開いてから「当たり前だろ。何が何でもしょっ引いて、お前の前に引きずり出してやるよ」って笑う。
病院に運ばれて治療も完了した萩原が見える所は全部包帯だらけで、ひょこひょこと足を引きずるようにして戻ってきたものだから香澄ちゃんが「ごめ…っ、ごめんなさ…、わたしの、わたしのせいで、」って真っ青な顔でかたかた震える。
そんな香澄ちゃんの所までしっかり自分の足で歩いて「香澄ちゃんのせいじゃないよって、大丈夫って、言ったでしょ。俺の目見て」って優しく頬を撫でる。真っ赤になった香澄ちゃんの目元を親指でそっと撫でて「大丈夫。香澄ちゃんを置いていなくなったりしないよ。包帯は…まあ、いっぱい付いてるけど、元気だよ。ここにちゃんといるから、大丈夫だよ」って背中に腕をまわしてそっと抱き寄せれば香澄ちゃんの嗚咽が零れる。
「こわ…っかったぁ…!ごめんなさい…っごめんなさい、ったすけて…っくれてありがとぉ…っ、」って香澄ちゃんが泣きじゃくるからあやす様に何度も背中を撫でて大丈夫を繰り返してあげる。
「ったく、いきなり飛び出すからビビったぜ」って苦笑いをする松田に「悪い悪い。俺もあんな反射的に飛び出しちまうとは思ってなかったわ」って苦笑いで肩を竦めながら返す萩原がいるよね。