押してダメなら引いてみろ

※ホラー注意※

松田と一緒にアイスを買いに深夜のコンビニにやって来た香澄ちゃんだったけど、松田がずっと怪訝な顔してるから「どうしたの?」って首傾げたらチラッと外に視線を向けて「……いや、何でもねぇ」って言ってくる。

何か変だなと思いながらも「そう…?」って返すんだけど全然何でも無くない。外に出たら電柱の下に女の人が立ってて、こんな時間に女の人一人は危ないよなぁ…って思ってたら「見んな。帰るぞ」って松田に肩を抱かれるから帰路につく。

……が、途中で違和感に気付いて「ね、ねぇ…?陣平くん…?」って恐る恐る声をかけたら「止めろ。マジ止めろ。気付かないフリしてんだからマジ止めろ」って青い顔で言われて「そのマジな顔止めて怖いからぁ…!」って香澄ちゃんも半泣き。

いつもと変わらない帰り道の風景なのに、時間は倍以上かかっている。歩けど歩けどアパートには辿り着かず、後ろからはぺた、ぺた、と不気味な足音まで聞こえてくる。ぴったりと松田に張り付いて足を動かす香澄ちゃんだけど怖すぎて泣きそう。

「これどうしたらいいの」「知るか。俺も知りてぇよ」「い、いっそ走る…?」「あっちも追っかけてきたらどうすんだよ」「怖いんだったら怖くなること言わないでよ!」って二人でぎゃあぎゃあ文句言いながら歩いてるんだけど全然ダメ。

ちらっと後ろを振り返っても誰もいなくて足音だけが響いてるから「い、いっそ…振り返って逆走する…?」って言い出した香澄ちゃんに「なんでお前そんなに逞しいんだよ」って松田が引いた顔してる。

「なんかこう、秘密の呪文とかで…除霊とか、」って呟く香澄ちゃんに「なんだ秘密の呪文って。変身でもすんのかお前は」って思わずずっこけそうになる松田がいる。散々文句は言うけど香澄ちゃんから絶対に手は離さないし、抱き寄せたままずっと離さない。

「な、なんだっけ、ほら、かくかくしかじかみたいなやつ…」「事情説明してどうすんだ」「び、びびで、ばびで、ぶー…」「本気で変身する気かお前」ってもう怖すぎて会話もおかしくなって来てる松田と香澄ちゃんに、背後の足音が一気に近付いてくる。

「チッ…!おい走るぞ、香澄!」「ぁぁあああ!?やだ怖い!!無理!!」「俺も怖ェよ!!!」って香澄ちゃんの腰に腕を回して走り出した松田に、半ば引きずられるようにして香澄ちゃんも走り出す。

走っても走ってもアパートに辿り着かなくて「も、むり…っ、はしれない…っ、」って香澄ちゃんに限界が来ちゃって足を止めれば、足音もピタッと止まる。あんなに走ったのに、さっきの場所から全然動いてなくて「だぁぁぁああッ!!クッソ!!」って苛立った様子で頭をがりがり掻いた松田が香澄ちゃんをふわりと横抱きにする。

「押してダメなら引いてみろって言うだろ!!」ってヤケクソで言うから「それちょっと違う気がする!!」って半泣きの香澄ちゃんが松田の首にぎゅうって腕を回してしがみ付く。「もうダメならダメで一緒に呪われっか」って冷や汗流しながらもニヤッと笑った松田に、こくりと頷いて首に回した腕に力を込める。

香澄ちゃんを抱える松田の手にも力が入って、さっきとは逆方向…つまりは、足音が聞こえる方へと走り出す。何かに引っ張られるような感覚に逆らって走り続ければ、さっき出たばかりのコンビニが現れて、重たい空気がふわっと消える。

「……はぁぁああ…まじで、マジでぇ……」って抱えた香澄ちゃんを抱き締めながら大きく安堵の息を吐いた松田に「じ、じんぺ…っ、こ、こわかったぁぁぁあ…!」ってわんわん泣いちゃう香澄ちゃんがいる。

そんな香澄ちゃんを慰めようとパッと視線を上げて「う、ぉ…っ、」って松田の口から声が漏れる。そんな松田を不思議に思った香澄ちゃんも「なに?どうし……ッ、ひ…っ、!」って顔を上げて、ゾッとする。

二人の全身に纏わりつく真っ黒な黒い髪の毛。先ほどの引っ張られていた感覚はこれだった、とハッキリ分かるほどに腕や足に絡み付いていて鳥肌が止まらない。「し、しお……しおかう……あびる……しおあびる……」ってもう顔面蒼白で震えてる香澄ちゃんの横で、松田も「な、んなんだよ…マジで…」って青い顔して固まってる。

買ったアイスはどろどろに溶けてるし、相当な時間が経っていると思っていたのにコンビニを出てからまだ5分も経っていなくて気味が悪い。お互いに絡み付いた髪の毛を取って、コンビニで塩を買って家の中に入る前にめっっちゃかけまくる二人がいるし、その日以来同じような出来事は一切起こったことがない。

あのコンビニは数週間後に閉店して、違う飲食店が建ったけれど二、三ヶ月で同じく閉店。どんなお店が来ても長続きしないのは、理由があるのだろうか。あまりの気味の悪さに松田と香澄ちゃんは当分の間、深夜のコンビニに行かなくなるよ。トラウマだもの。
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