もしかしてお嫌いでしたか?

友人に連れられてやって来たポアロの店員さんがどう見ても学生時代の友人で困惑する香澄ちゃんだったけど、お冷を持ってきた店員さんが「初めまして、ですよね?」ってにっこり微笑んで自己紹介をして来るから「初めまして、安室さん。とっても素敵なお店ですね」って同じように笑い返す。

「またのご来店を、お待ちしております」って笑った安室にぺこりと頭を下げて帰路につく香澄ちゃんの頭の中は学生時代の降谷の姿。「……あれで別人は、無理あるよなあ」って小さな声で呟いて、また別の日に一人でポアロにやって来る。

扉を開けた香澄ちゃんを見て一瞬動きを止めた安室の目が何で来るんだ、と言いたげな色をしていて思わず「ふ、ふふっ…忙しい時に、ごめんなさい。一人なんですけど、いいですか?」って笑いながら言っちゃう。

「ええ、勿論です。お気遣い、ありがとうございます」って微笑んだ安室にカウンター席を案内されて腰を下ろした香澄ちゃんはメニューを見るふりをしながら安室を見る。やっぱりどこからどう見ても降谷でしか無い。

とは言え本人が先手を打つように安室と名乗ってきた以上、安室で通したいのだろう。諸伏と一緒に警察官になると息巻いていたから、きっと何かの捜査のために偽名を使ったりしているのかな。なんて香澄ちゃんの中で色々な考えが浮かんでは消え、を繰り返す。

「ご注文は、お決まりですか?」って微笑んでくる安室に「安室さんのおすすめで」ってにっこり笑って返せば、安室はひくりと一瞬だけ頬を引き攣らせてから「かしこまりました」って笑ってカウンターの奥に引っ込んでいく。

てきぱきと動く安室をぼんやりと見つめていれば、隣からひょこりと小さな頭が顔を覗かせる。「こんにちは、お姉さん!」と笑う少年はコナンと名乗って香澄ちゃんの隣に腰を下ろす。

「お姉さん、安室さんの知り合い?」って首を傾げるコナンに「ううん、今日で二回目。どうして?」って香澄ちゃんが首を傾げれば「え、そうなの?何だかすっごく仲良しさんに見えたから、昔からの知り合いなのかなって思ったんだ!」ってコナンが笑う。

予想していなかった返事に香澄ちゃんがぽかんとしてから「ふふっ、コナンくんにこわぁい事、教えてあげよっか」ってニヤッと笑う。「な、なに…?」って警戒するような顔をするコナンに「大人はね、仲良しじゃなくても仲良しに見えるようにお話できるのよ」ってくすくす笑いながら香澄ちゃんが言うから、今度はコナンがぽかんとする。

「…へ?」って目を瞬かせるコナンを見て苦笑いを浮かべた安室が「おや、寂しいですね。仲良しじゃないなんて」って肩を竦めながらやって来て「どうぞ、僕のおすすめです」って笑ってカップを差し出してくる。

そこには学生時代に好んでよく飲んでいたミルクティーがあって「これ、」って驚いた顔で安室を見つめれば「あれ、もしかしてお嫌いでしたか?」って悪戯っ子みたいな顔で笑われるから「逆ですよ。大好きだったから、びっくりしたんです」ってふんわりと香澄ちゃんが微笑む。

「それは、良かったです」って笑った安室と香澄ちゃんを交互に見つめたコナンが、頬を引き攣らせながら「……お姉さん、まさか…安室さんの恋人?」って首を傾げるから「ぷっ、あっははは!無い無い!最近の子はおませさんだなあ。もしかしてコナンくんには好きな人がいるのかな?」って香澄ちゃんは声を上げて笑っちゃう。

香澄ちゃんの言葉に一瞬でペースを持って行かれて「ち、違うよ…!そんなんじゃなくて!」「あ、顔真っ赤だ。絶対いるじゃん、だれだれ?お姉さんに教えてよ」「だからいないってば!」って顔を真っ赤にしたコナンと楽しそうな顔の香澄ちゃんを見た安室はふっと表情を緩めて「僕、知ってますよ。コナンくんの好きな人」って恋バナに参加するよ。

お互いに言葉にはしないけど、自然と距離が縮まっていく。周りから見たら恋人同士なのに当人たちは付き合ってない、の一点張り。「好きだけど、まだダメかな」ってくすくす笑う香澄ちゃんの言葉の本当の意味は安室だけが知っている。
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