「お互いのためってことで、付き合ってるフリでもしましょうか」って朗らかに笑った安室の提案に乗っかる形で始まった恋人ごっこ。「あくまで恋人のフリですからね、安室さん」「ええ勿論。香澄さんこそ本気で好きになったりしちゃダメですよ」って二人で言い合うけれど、どうだろうね。
「恋人のフリなんだから、面倒ごとに巻き込まれてる私のことなんて放っておけばいいのに」って泣きそうな顔で微笑んだ香澄ちゃんの手をぎゅっと握って「こんな状態の貴方を放っていたら、恋人である僕がろくでもない奴に見えてしまうでしょう」って安室が肩を竦める。
「放っておいて欲しいって意味よ。そんなことも分かんないの」って眉間に皺を寄せた香澄ちゃんに「すみません。それでも、僕は自分が一番大事なので傍にいさせてください。貴方の為じゃなく、僕の為に」って安室が言うから「……最悪」って香澄ちゃんが静かに涙を流す。
繋いだ手はそのまま。涙を拭うことも無ければ、慰めの言葉をかける訳でも無い。安室が欲しいのは、泣きじゃくる恋人の傍に一晩中付き添っていた優しい彼氏、という評価だけ。
「私が、涙の一つも拭ってくれない酷い男だって言うかもしれないって、思わないの?」って香澄ちゃんが聞けば「…キスの一つでも、しましょうか。貴方の涙が止まるように」って安室が香澄ちゃんを見つめる。
重ねられていただけの手が、ゆっくりと手の甲を滑って、指先が絡まる。「僕は、簡単に出来ますよ」って呟いた安室の瞳が一瞬だけ揺れて、欲の色を灯す。「なんで?男の人だから?」って試す様に首を傾げた香澄ちゃんに「僕が安室透だからですよ」って微笑んだ安室が唇を重ねた。
とっくに香澄ちゃんに本気になってるけれど、その思いを伝えることは許されない。でも香澄ちゃんを手放すのも嫌で、あの手この手で繋ぎ止めてる安室もとい降谷がいる。どれほど嫌な奴だと思われても自分の手から香澄ちゃんがすり抜けることだけは許したくないワガママ零くんのお話。