※原作軸※本当に注意※
萩原の死後、ぱったりと連絡が取れなくなった香澄ちゃんを偶然見かけた松田が慌てて声をかける。振り返った香澄ちゃんは、最後に見た時よりもずっと小さくなってて「……飯、食いに行かね?」ってつい誘っちゃう。
ぽかんとしてから「ちょっと、なら」って頷いてくれた香澄ちゃんを連れて松田がやって来たのは、萩原と松田と香澄ちゃんの三人でよく行っていた居酒屋で「ちゃんと、飯食ってんの」って松田に聞かれた香澄ちゃんが「…まぁ」って呟く。
お互い何とも言えない沈黙が流れて、誘ったものの何を話せばいいのか分からずに松田が言葉を詰まらせてれば「……いまでも、まだ、かえってくるきがするの」って香澄ちゃんが小さな、小さな声で呟く。
店内の喧騒にかき消されてしまいそうなほどに、掠れた、小さな声だった。「ただいまって、きこえるの」って香澄ちゃんがぎゅうっと自分の両手を固く握り締める。「…あぁ」って松田が返事をして、ビールを流し込む。
松田は、あの日以来、一度だって酒を美味いと感じたことは無かった。きっと、香澄ちゃんも同じなのだろうと、静かに香澄ちゃんを見つめる。綺麗な瞳がゆらゆら揺れて、涙が滲む。
「ちょっとずつ、研二くんがいなくなるの」って堪えきれずに香澄ちゃんの瞳から涙の粒が零れ落ちた。「けんじくんのこえ、おもいだせないの」って両手で顔を覆った香澄ちゃんが静かに肩を震わせる。
松田も、同じだった。幼い時から、あんなにも聞いていたというのに。薄情な奴だと、自分を嘲笑した日は数えきれないほどあったけれど、自分と同じことを思って涙を流す香澄ちゃんを嘲笑しようとは、微塵も思わなかった。
それどころか、救われた。あぁ、自分だけではないのだ、と。かける言葉は見つからなくて、肩を震わせる香澄ちゃんを横目に再びビールを流し込む。萩原が吸っていたタバコをポケットから取り出した松田が、火を付ける。
紫煙がくゆって、宙に舞う。まるで、香澄ちゃんを慰めるように、紫煙は香澄ちゃんの方へと向かっていくから「多分、アンタのことが心配で、まだその辺にいるぜ」って柄でもないことを呟いた松田が心の中で萩原に呼びかける。
お前のせいで、お前が世界で一番愛した女が泣いてるぞ、と。「ごめんね」って泣きそうな顔で下手くそに笑う萩原の姿が香澄ちゃんの隣に見えたような気がして、サングラスの奥の松田の瞳もゆらりと揺れて、視界が滲んだ。