※流血表現アリ※いろいろ注意※
突然家に届いたスタンドブーケに首を傾げた香澄ちゃんだったけれど送り主が警視庁だったこともあって受け取っちゃう。ふわりと香る甘い匂いにすん、と鼻を鳴らして「たまにはこういうのもいいかも」ってお部屋に飾っておくんだけど、日に日に体が重くなっていって、ある日視界が一際大きく揺れる。
どさっとフローリングに膝をついて、呼吸が詰まるような息苦しさに堪らず胸を押さえる。何かがおかしいと思って咄嗟にスマホに手を伸ばす。ぼやける視界の中で着信履歴の一番上をタップして応答を待っていれば、耐えられないほどの吐き気に襲われる。
「こんな朝っぱらからどうした?」って聞こえてくる松田の声に返事をしようとした、瞬間だった。ごぽりと、真っ赤な塊が口から零れ落ちて、フローリングを真っ赤に染め上げる。
「ぁ、ぇ…?」って理解が追い付かないまま、体は力を失ってドサリと倒れ込む。松田が何度も香澄ちゃんの名前を呼ぶ声が聞こえて、返事をしなきゃ、と思うのに声が出ない。鼻の奥に残る甘い匂いに、ずきりと頭の奥が痛んで、そのまま意識を飛ばす。
かかって来た電話に応答した瞬間に、べしゃりと何か液状のものを吐き出す音と、ガシャンと響いた落下の衝撃音に松田は、瞬時にただ事ではないと理解した。通話は繋げたまま、スピーカーモードで香澄ちゃんの名前を呼び続けて、その傍らでメッセージアプリを立ち上げて萩原たちへメッセージを送る。
『香澄、緊急事態、自宅』とだけ送っても、瞬時に理解をしてくれるかつての同期たちに松田はホッと息を吐く。ジャケットをひっ掴んで家を飛び出した松田は電話の向こうの香澄ちゃんへ何度も呼びかけながら香澄ちゃんの自宅へ向かう。
駆け付けてチャイムを鳴らせど、出てくる気配は全く無い。警察官としてどうかとは思ったが、緊急事態だと己に言い聞かせて扉の鍵をピッキングする。かちりと軽い音がして鍵が開いて、ようやく中に入れると思ったのも束の間、ご丁寧にかけられたチェーンロックに舌打ちをした。
「チッ…!この非常時に…!」って苛立つ松田だけど、女性の一人暮らしなんだから絶対にチェーンロックはかけろと口を酸っぱくして言い聞かせたのは間違いなく松田たちで。それを分かっているからこそ強くは言えずに歯噛みする。
「松田!!香澄ちゃんに何があったの!!」って萩原が息を切らしながら駆け付けて、数分もしない内に伊達や諸伏、降谷も到着する。簡潔に状況を伝えてほんの少し開いた扉の隙間から香澄ちゃんの名前を呼ぶけれど、返事は無い。
そんな中、ふと眉間に皺を寄せた降谷が「この匂い…まさか…!」って呟いて扉の隙間から室内の匂いを嗅いで、表情を強張らせる。「早くこの扉をこじ開けないと…ッ、手遅れになる!!」って慌てた様子でチェーンロックを壊しにかかるから、全員がひゅっと息を飲む。
「どういうことだゼロ!」って伊達が声を荒げて「手遅れってどういうことだよ!」って萩原も顔を真っ青にする。がばりと勢いよく扉が開かれて、甘い花のような香りが一気に広がって諸伏がハッとする。
「これ…っ、まさか…!」って顔を青くする諸伏に「そのまさかだ…!」って降谷も顔を青くする。「お前ら、あまり深く吸うなよ。この甘い香りは毒だ」って降谷がハンカチで口元を覆って「僕とヒロで香澄を連れてくる。お前たちは一旦離れて救急車を呼んでくれ」って駆け出して、諸伏もそれに続く。
言われた通りにマンションのエントランスで待機していれば香澄ちゃんを横抱きにした降谷たちが戻ってくる。死人のような真っ青な顔でぐったりと意識を失う香澄ちゃんの口元から、上半身にかけて広がる赤色に全員がぞくりと体を強張らせる。
救急車で搬送された香澄ちゃんを見送って「思っていたより状況が不味い…っ、下手をすると、本当に…手遅れかもしれない」って拳を握り締めた降谷に言葉が出なかった。その後、室内を調べた結果、毒物は部屋に飾られていたフラワースタンド。
少しずつ、時間をかけて香澄ちゃんの体を蝕んで、それが今日爆発した。「俺たちが、出所を探していた毒物だったんだ。…っ、ごめん、俺たちがもっと早く、解決できていれば…!」って手のひらに赤が滲むほどに拳を握り締めた諸伏に「お前らのせいじゃねえだろ」って返した松田が治療を終えて、ベッドで眠り続ける香澄ちゃんの頬を撫でる。
「俺だって、もっと早くコイツの様子がおかしいって気付けたはずだった」って親指で香澄ちゃんの目元を撫でる。香澄ちゃんが倒れる直前に香澄ちゃんと会っていた松田は明らかに顔色が悪いと、気付いていたのに深く追求しなかった。
「最近寝つきが悪くて」って笑った香澄ちゃんに「疲れてんじゃねーの。早く帰って風呂入って寝ろ」って返した、次の日の事件だった。「俺が、早く帰したんだよ。あの、毒が充満する部屋に、俺が…!」って拳を握り締めた松田に「それこそ、松田のせいじゃないだろ!」って諸伏が声を荒げる。
「俺のせいなんだよ!!アイツがフラワースタンドを飾り始めたことも、顔色が悪かったのも、知ってたんだよ!!帰りは部屋まで送って、玄関まで一緒に来たのに…っ、俺は何一つ気付かなかった!!俺のせいじゃなきゃ誰のせいなんだよ!!」って怒鳴った松田がはぁはぁと肩を上下させて息を切らす。
「落ち着け、松田。誰もお前のせいだなんて言って無いだろ」って伊達が松田の肩に手を置いてぐっと力を込める。「そんなの、俺たちだって気付けるか分かんねぇよ。それは陣平ちゃんのせいじゃないでしょ」って萩原も宥めるように言うれど松田の気持ちは荒ぶったままだった。
「でも、お前が前日に会っていたから、香澄はお前に電話できたんだろ」って降谷が静かな声で言うから松田がハッと息を飲む。「仮にお前のせいで香澄がこうなったんだとしても、お前のお陰で香澄が助かってるのも紛れも無い事実だよ」って降谷が香澄ちゃんの頬を撫でる。
顔色は最悪だけど、生きている。目が覚めるかどうかは分からないけれど、それでも生きている。松田が、松田への電話が、繋ぎ止めた命であることに間違いは無い。「香澄ちゃんだって松田のせいだなんて思ってないと思うよ」って諸伏に言われて、じわりと松田の目に涙の幕が張る。
「…タバコ吸ってくる」って逃げるように病室を飛び出した松田を見送って「ありゃ泣きそうなの我慢してんな」って萩原がけたけた笑えば「松田はカッコつけだからな」って降谷が鼻で笑うから「それゼロが言うんだ」って諸伏が堪らず吹き出す。
「はぁ?どういう意味だよ、それ」って不満そうな顔をする降谷に「言葉のままだろ」って伊達が笑って返す。今まで通りの、なんてことの無い会話。香澄ちゃんの意識が、ちゃんとこっちに戻ってこれるように降谷たちはいつも通りを貫き通した。
その後、奇跡的に目が覚めた香澄ちゃんに異常なまでに過保護になる警察学校組がいたりするし、目が覚めたら松田がべったりになっちゃって「あの、松田さん…?さすがにお手洗いは一人で行かせてください」「何かあったらどうすんだよ」「何もないですよ…!変なものがあったらちゃんと言いますから!ね?」「絶対だぞ」「はい、絶対です」って苦笑いの香澄ちゃんがいたりするかも。