隣の部屋に住んでる香澄ちゃんが結構なヤバ男と付き合ってるっぽくてどうにかして助けてあげたい萩原の話。
深夜に聞こえて来た怒鳴り声と壁を殴る音、そして力いっぱい玄関を閉める音と男の苛立った声。「またかぁ」とため息を吐いた萩原は隣の部屋にいるであろう香澄ちゃんを思い浮かべた。
たまに出会って挨拶をする程度の仲でしかないけれど、香澄ちゃんが素直で優しい良い子であることを萩原は知っていた。そして、同時に香澄ちゃんがろくでもないヤバ男と付き合っていることも知っていた。
ワンルームの単身用アパートの壁なんて薄いに決まっていて、隣の部屋の生活音はある程度聞こえてくる。もちろん聞き耳なんて立ててないけれど、香澄ちゃんの部屋にやって来る男の声や、夜のあれそれの声はよく聞こえていた。
そして、香澄ちゃんを理不尽に罵倒する声や、何かに当たるような物音も当然しっかりと聞こえていた。「どうしたもんかねぇ…」って呟いて紫煙をくゆらせた萩原には現状、出来ることなどひとつも無かった。
その翌日、玄関先でばったり出会った香澄ちゃんが萩原を見るなり申し訳無さそうな顔で「すみません。昨日、うるさかったですよね」って頭を下げるから「あー…彼氏、さん?なんかすっげぇ怒ってたみたいだったけど、大丈夫?」って萩原がそれとなく様子を伺う。
「いつものこと、なので…」って泣きそうに眉を下げた香澄ちゃんがきゅっと自分の腕を抱き締めるようにするから「手あげられたり、してないよね?」って萩原の顔が一気に険しくなる。
「あっ、いや、その…、直接何かされた訳じゃないので…!」って慌てた様子で首を振る香澄ちゃんに「その腕、彼氏さんのせいで怪我したってこと?」って尋ねれば、香澄ちゃんが眉間に皺を寄せる。
恋人同時の喧嘩なんて口を出すべきじゃないと、萩原も重々承知しているけれど香澄ちゃんが怪我をしているとなれば話は別だった。男としても、警察官としても黙って見ている訳にはいかない。
「お節介かもしれないけど、彼女に怪我させるような男はやめた方がいいと思うよ」って萩原が真剣な顔で言えば、香澄ちゃんがくしゃりと顔を歪めて泣きそうな顔で首を横に振る。
「何度も、言ってるんですけど…ダメ、なんです」って香澄ちゃんの震える声に「ダメ、って…」って萩原が戸惑ったような声をあげれば「別れようって言うと、昨日みたいに怒って、暴れて、手がつけられなくなっちゃうんです」って諦めたような顔で肩を竦めて香澄ちゃんが笑う。
「だから、もう、諦めちゃいました」ってへらっと笑った香澄ちゃんは、どこをどう見ても平気そうじゃなくて萩原がぎゅっと拳を握り締める。
「君が本気であの男と別れる気があるなら協力するよ」って萩原の言葉に香澄ちゃんの瞳が揺らいで「…どう、いうことですか…?」って恐る恐る尋ねてくるから「俺、こう見えてもおまわりさんなんだよね。だから、善良な市民が困ってるのを見過ごせない訳よ」って萩原が明るい声で笑いながら香澄ちゃんを見る。
「諦める必要なんて、全然無いよ。俺に、君を助けさせて」って香澄ちゃんと目線の高さを合わせるように少し膝を折って屈んだ萩原がふわりと笑えば、香澄ちゃんの目からぽろぽろと涙が溢れ出す。
「ほ、ほんとうに…っ、たすけて、くれるっん、ですか、っ…?」って泣きながら聞いてくる香澄ちゃんに「もちろん。おまわりさんは、困ってる子の味方だよ」って笑った萩原がぽんぽんって頭を撫でてあげれば「あり…っありがっとう、ございます…っ、ありがとう…っござ、っいます…!」って泣きながら香澄ちゃんが何度もお礼を言う。
「もう、大丈夫だよ」って優しく笑った萩原によって男とは無事(?)に別れることが出来るし、その後萩原からの猛アプローチが始まるよ。