来るの、はやいよ

※原作軸※本当に注意※

目を開けていられないほどの突風にぎゅっと目を閉じて、次に目を開けたら少し遠くに萩原が立っているのが見えた。萩原の顔がくしゃりと歪んで「来るの、はやいよ」って震える声が聞こえて弾かれるように走り出した。

「研二くん…!」って手を伸ばして腕の中に飛び込めば、痛いくらいに抱き締められてぼろぼろと涙が溢れ出す。会いたかった、寂しかった。どうして私を置いて行ってしまったの。どうして、貴方が死なないといけなかったの。どうして、どうして。

萩原のお墓の前で何度も泣いて、何度も叫んで、何度も悔やんだ。記憶の中の萩原が少しずつ、欠けていく。声が思い出せなくなって、匂いも、背丈も、何も思い出せなくなった。家の中から消えていく萩原の痕跡が耐えられなかった。

毎晩、萩原を想って泣いて、叫んで、夜を明かした。萩原を心配させないように、と頑張ったけれどダメだった。「研二くんのいない世界で、いきていけなかった…っ、!」って萩原の腕の中で涙を流して、縋りつく。

いる、ここにいる。萩原の声が、名前を呼んでくれる。萩原の匂いが、胸いっぱいに広がる。萩原の手が、力一杯抱き締めてくれる。ずっと、ずっと、ずっと。それだけを求めていた。他に、何もいらなかった。

「けんじくん、けん…っじ、くん…っ、すき、すきなの、だいすきなの…っ、もう、ひとりはやだよ…!だいすきなの、おねがい…っ、ずっといっしょにいて、もう、おいていかないで…っ、」って泣きじゃくる香澄ちゃんに、萩原の目から涙が零れ落ちた。

後悔していた。彼女を置いて行ってしまったことを。泣かせてしまったことを。月命日に欠かさず来てくれるお墓参りで、いつも泣いていることを知っていた。毎晩、ベッドの中で涙を流していることを、知っていた。

忘れたくない、覚えていたい。置いて行かないで、一人にしないで。そう言って泣きじゃくる彼女の姿を見て、何度も手を伸ばして、何度も声をかけた。何度も、何度も、何度も。それでも、彼女にその手が、声が、届くことはなかった。

一人で立って欲しいと思う反面で、彼女の中の自分の存在の大きさが嬉しくて、愛おしくて、堪らない気持ちもあった。最低だな、と自嘲したことだって何度もある。彼女の早すぎる死を怒って、嘆いて、悲しまなきゃいけないはずなのに。

「香澄…、香澄、香澄…!すきだよ、あいしてる。世界で、一番、だれよりもだいすきだよ。ひとりにして、ごめんな…っ、ずっと、ずっとくるしませて、ごめんな…っ、あいしてるんだ、ほんとうにっ…おれに、あいにきてくれて、ありがとう、香澄…っ、あいしてる」って涙が、心が、溢れ出す。

嬉しくて、仕方が無い。どちらからともなく重なった唇は、涙の味がして。嬉しくて、愛おしくて、心が震えた。離したくない、離れたくない、離さないで欲しい。もう二度と、二人の道が分かたれることの無いように。もう二度と、こんなにも胸が張り裂けるほどの悲しみを味わわないように。交わした誓いのキスが、二人を深く深く、繋いでいた。
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