行く所が無いならウチに来ますか?

※雨の日の夜に道路にしゃがみ込んでた萩原を拾ったら人間じゃなかった話※続くかな、と思っていたけど続かない※

疲れ切っていた私は正常な判断能力を失っていた。いくら顔の綺麗な美人のお兄さんだからと言って初対面の相手に「行く所が無いならウチに来ますか?」なんて、あまりにも危機感が無さすぎると後になって後悔した。

けれど「ごめんね。お風呂まで、ありがとう」と柔らかく微笑んだ彼を見て、心の中でグッジョブ私!とガッツポーズをしてしまったのは嘘じゃない。月明かりに照らされた綺麗な顔は、見間違いなんかじゃなかった。

お風呂に入って温かみの増した頬と、明るい室内でキラキラ光る紫色の瞳。行く所が無い、お金も無い、たった一つ確かなのは顔がすこぶる良いこと。怪しい匂いしかしないけれど、連日の激務で正常な判断能力を失っていた私の前でイケメンと言うカードは効果抜群だった。

「やっぱり、服ちっちゃかったですね」と苦笑いをした私に「ううん。着るものがあるだけで助かるよ」と彼は笑う。元カレが置いて行ったスウェットを一先ず貸したけれど、袖も裾も随分と短い。元カレも決して身長が低い人ではなかったんだけど、と改めて目の前の彼の手足の長さに感動した。

「髪の毛乾かさないと風邪引いちゃいますよ。ドライヤー持ってくるので、座って待っててください」と笑いかければ「うん、ありがとう」と彼もにこりと笑う。ドライヤーを取りに洗面所に向かい、ふと冷静になる。外は雨。今日の夜から明日にかけて強い雨と風の予報が出ていた。

だから彼をそのままにはしておけなくて、自宅へと招いた訳なのだが。じゃあ、明日以降はどうしたら良いのだろうか。天気が良くなったのでまた外で拾ってくれる人を探してくださいね、と追い出せば良いのだろうか。

否、そんな非道な事、一体誰が出来ようか。「…どう、しよ」と呟いて小さくため息を吐く。とは言え、付き合っている訳でも無い男の人をこの先ずっと家に置いておくのは、こう…何かがマズい気がする。

だからと言って出て行けと言える度胸も無いけど。「うあー……私のバカ……」と頭を抱えてしゃがみ込んでいれば、私の戻りが遅いことを心配したのか「大丈夫?」と彼が洗面所に顔を覗かせる。

「うわぁあ!?だ、大丈夫!大丈夫です!」と盛大に肩を揺らして振り返った私を見て、彼はきょとんと目を瞬かせてから「あははっ」と声を上げて笑い出す。「ごめ…っ、ふふ、あははっ…!そんなに驚かせちゃうと思わなくて…ごめんね…ふふっ」と笑いを堪えるように手で口元を覆って肩を震わせる彼に「こ、こちらこそ…すみません…」とじわじわ顔が熱くなる。

「こ、これ…!どうぞ!私、ご飯の準備してくるので!」と逃げるように彼にドライヤーを押し付けて、彼の脇をすり抜ける。聞こえてくる笑い声に気付かないフリをして冷蔵庫の中を覗く。人様を迎える準備なんて到底出来ていなくて、冷蔵庫の中身は随分と寂しい。

「…もう、チャーハンでいっか」と考えることを止めた私は冷蔵庫の中から材料を取り出して調理を始めた。
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