萩原と香澄ちゃんの間に立ち塞がっていた瓦礫の山が撤去されて、萩原の目に飛び込んできたのは、あの日よりも大人っぽくなった香澄ちゃんの姿。その口が、小さな声で萩原の名前を紡いだ瞬間、萩原は駆け出して華奢な体を腕の中に閉じ込めた。
「愛してる。あの日から、ずっと、香澄ちゃんだけだよ。世界で一番、あいしてる」って力一杯香澄ちゃんを抱き締めて、有無を言わせずに唇を重ねる。驚いたように目を見開いてから、萩原の服をぎゅっと握り締めて必死にキスを受け入れる香澄ちゃんに萩原は表情を緩める。
一度離した唇を、再び重ねようとした萩原の頭を思い切りひっぱたいたのは松田だった。「時と場所を考えろ」ってひくりと頬を引き攣らせた松田を「邪魔しないでくれる?」って萩原が睨み付けて、全てを見られていたことに気が付いた香澄ちゃんが萩原の腕の中でじたばたと暴れる。
「〜〜ッは、はなしてください…!」って半泣きで暴れる香澄ちゃんの腰に手を回して「無理。もう絶対離さないから」って萩原が笑うから「ま、まつださぁん…!」って香澄ちゃんが助けを求めるように松田に手を伸ばす。
「バッカ…!こっちに振んな…!」って焦ったような顔をした松田に香澄ちゃんがきょとりと目を瞬かせれば、視界いっぱいに広がった萩原の顔。「俺がいるのに、他の男に手伸ばすなんて、随分じゃない?」ってにこりと微笑んだ萩原が香澄ちゃんの唇に噛みつくから「んぅ…っ、!?」って香澄ちゃんが再び目を見開く。
ダメだこれ、と言わんばかりに額を押さえた松田が「自力で外出るんで、こっちはほっといてもらって大丈夫っす」って救助隊に指示を出して再び萩原の頭をひっぱたく。
「だから時と場所を考えろっつの」って青筋を浮かべた松田に「考えてんじゃん。七年ぶりの再会だよ?もうちょっと浸らせてくれてもよくない?」って萩原が不満そうに眉間に皺寄せるから「七年ぶりになったのはテメェの自業自得だって何回言わせんだよ。テメェの事よりも、さっきまで爆弾目の前にしてた香澄を気遣えよ」って松田が舌打ちをすれば、萩原はバツの悪そうな顔でふいっとそっぽを向く。
「…分かってるっつの」って小さな声で呟いた萩原が「香澄ちゃん、ごめんね。怪我は無い?」って香澄ちゃんの手を両手でぎゅっと握り締める。「だ、大丈夫です…!」って返事をする香澄ちゃんだけど、手や足には小さな擦り傷が沢山付いていて、萩原が眉を顰める。
「色々話したいことがあるんだけど、後でちゃんと全部話すから」ってまっすぐに香澄ちゃんを見つめた萩原に香澄ちゃんがこくりと頷いて「…はい、」ってふにゃりと笑う。萩原の手をぎゅっと握り返して嬉しそうに笑う香澄ちゃんの姿に、どうしてときめかずにいられようか。
「とりあえず、一旦全部置いといて…やっぱり結婚しよう。俺が絶対に香澄ちゃんを幸せにするから」って真剣な顔で言ってのけた萩原に「TPOって知ってるか?」って松田が本気で死んだ顔をするけれど、頬を赤く染めた香澄ちゃんが「はい、不束者ですが、よろしくお願いします」って了承するから「待て待て待て、お前も納得すんな。ツッコめよ、どう考えてもおかしいだろ」って松田の心労が二倍になる。
「病院行って、帰りに指輪買いに行こうか」って笑う萩原に「じゃあ婚姻届は明日ですね」って香澄ちゃんがくすくす笑うから「ちょっっっと待て。お前ら気は確かか?」って松田が顔を引き攣らせる。
「マジだよ。超正気」ってむしろお前が何言ってんの?と言わんばかりの不思議そうな顔で首を傾げた萩原の隣では「私、何かハイになってるかもしれないです」って香澄ちゃんが笑うから、ようやく気が付いた。ヤバいのは萩原だけではなかったのだ、と。
病院での検査結果は異状無し。体中の擦り傷も数日で治るだろうと言われた香澄ちゃんにホッと息を吐いた松田が「無茶な事させて、悪かった」って香澄ちゃんに頭を下げるから、香澄ちゃんが慌てたように首を横に振る。
「ま、待ってください…!あれは、だって、もうそうするしか無かったじゃないですか…!」って慌てたような顔で松田の頭を上げさせようと四苦八苦した香澄ちゃんが「あの時、絶対死なせないって言ってくれて、本当に心強かったんです。だから…松田さん、助けてくれてありがとうございました」ってふんわりと笑うから「あぁ、俺の方こそ、ありがとな」って松田も釣られるようにふわりと微笑む。
そんな二人を遮るように萩原が香澄ちゃんを後ろからぎゅうっと抱き締めて「松田と距離近くない?」って怪訝な顔をするから「近くねぇよ」って松田がため息を吐く。
「お礼くらい言わせてくださいよ…」って苦笑いをしながらも萩原の手を受け入れてる香澄ちゃんに「…お前、それ嫌じゃないのか?」って松田が尋ねれば、香澄ちゃんがきょとりと目を瞬かせる。
萩原の数々の危ない発言を聞いている手前、本気で香澄ちゃんが嫌がっているのなら心を鬼にして止めねばならないと思っていた松田が「嫌なら嫌って、ちゃんと言えよ」って真剣な顔で香澄ちゃんを見つめるけれど「困ったことに、全然嫌じゃないんですよね」って香澄ちゃんがへにゃりと笑う。
「あんなに、会いたくなかったはずなのに…今は、嬉しくて、仕方ないんです」って恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑った香澄ちゃんに「なら、いいけどよ…」って松田もふっと表情を緩ませる。
親友の長年の願いが叶ったことを喜ばしく思いながら萩原を見た松田だったが、この世の終わりを思わせるような顔で固まっている姿に思わずずっこけてしまう。一体、今の話のどこでそんな顔になったんだ。
「おい、ハギ。何つー顔してんだよ」って怪訝な顔をした松田から香澄ちゃんに視線を移した萩原が「香澄ちゃん、俺に会いたくなかったの…?」って震えた声で呟けば「あっ、えっと…そう、ですね…割と、最近まで、会いたくなかった…です…」って香澄ちゃんが気まずそうに返事をするから今度こそ萩原の頭には何かでガツンと殴られたような衝撃が走った。
ぎゅううっと力一杯香澄ちゃんを抱き締めて「おれは、こんなにあいたかったのに、なんで…なんで…」って肩口にぐりぐりと額を押し付ける萩原に「色々あったんですよ」って香澄ちゃんが呟けば「色々ってなに」って萩原が不満そうに唇を尖らせるけど「色々は色々ですよ…ていうか、私だって聞きたこといっぱいあるんですからね」って香澄ちゃんも同じように唇を尖らせるから、犬も食わない痴話喧嘩の予感に松田は早々に白旗を上げた。