「という訳で、俺たち結婚しました〜!」って笑顔で報告してきた萩原に「……あっそ」って松田の目が死ぬけど萩原は「まあ結婚したって言っても籍入れたりとか指輪とか式とか諸々これからなんだけどね」ってお構い無しに喋り続けてる。
病院で手当てを受けた後、萩原に手を引かれるまま香澄ちゃんが連れてこられたのは萩原の家だった。「明日は仕事休みだよね?」って首を傾げた萩原に「あ、うん…さすがに、休めって言われ、ました…」って香澄ちゃんが頷けば「ん、ならよかった」って萩原がふわりと笑う。
人差し指の背で香澄ちゃんの頬を撫でていた萩原だったけど、額に巻かれた包帯と頬に貼られた大きなガーゼを見てきゅっと眉間に皺を寄せる。
「……俺のせいだね」って呟いた萩原に「なんで、萩原さんが、悪いんですか」って香澄ちゃんが泣きそうな顔をして「私を、助けてくれたのは萩原さんだけど、傷付けたのは萩原さんじゃないですよ」って頬に添えられた萩原の手に自分の手を重ねる。
「そんな顔、しないでください」って萩原の手に擦り寄るように頬を押し当てた香澄ちゃんに萩原の胸がきゅっと苦しくなる。「……どんな顔、してる?」って聞けば「痛くて仕方ない、って顔」って香澄ちゃんが返すから「だって、すげぇ、痛ぇもん」ってくしゃりと顔を歪ませて胸元の服を握り締める。
会いたくて、会いたくて堪らなかった。誰よりも大事にしたかったのに、自分が手を離した。挙句、こんなにも長い間待たせた。久しぶりに会えたと思ったら、体にも心にも大きな影響を及ぼすような、酷いことをさせてしまった。これで、どうして心を痛めずにいられると言うのだろう。
萩原の「俺のこと、きらいになったでしょ」って言葉に迷いは無いのに、表情は泣きそうに歪んでいて縋るような目が香澄ちゃんを見つめるから「きらいに、なれたら、もっと楽だった」って香澄ちゃんの表情もくしゃりと歪む。
会いたくなかった。嫌いになりたかった。どこにいるのか、何をしているのか、何一つ分からない萩原を待ちたくなかった。振り向いてくれるのかどうかも分からない男に一生縋るだけの惨めな女になりたくなかった。
「会いたくなかったの…ッ、まだ好かれていた、萩原さんが私を大事にしてくれていたあの時のままで、いたかった…!」って香澄ちゃんの目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「今日まで、香澄ちゃんを想わなかった日は無いよ」って萩原が香澄ちゃんの頬を伝う涙を親指で拭う。「全部、なにもかも、おれのせい」って震える声で呟いた萩原の瞳から涙が零れるから香澄ちゃんがハッと目を見開く。
「爆発に巻き込まれて、一年間意識が戻らなかった」って静かに告げた萩原が香澄ちゃんを見つめる。萩原の瞳から零れた涙は、頬を伝って、顎の先からぽたりと落ちる。
「香澄ちゃんとの、約束も、連絡も、全部すっぽかした」って自嘲するように笑った萩原に香澄ちゃんが唇を噛み締める。「陣平ちゃんの言う通り、ぜんぶ、俺の自業じと、」って萩原の言葉を遮って香澄ちゃんが萩原にキスをする。
両手で頬を包んで唇を重ねた香澄ちゃんが何度も、何度も、萩原の唇にキスをする。「な、に…して、」って目を瞬かせた萩原に香澄ちゃんの瞳からぼろぼろと大粒の涙が次から次へと溢れ出す。
「なんで…っ、なんで…!萩原さんは、なにもわるくないのに、なんで、自分のせいにするの…!」って香澄ちゃんが声を荒げるから萩原が困ったように眉を下げて落ち着かせるために「香澄ちゃん、」って名前を呼ぶ。
「くやしい…っ、萩原さんが、いちばん苦しかった時に、傍にいてあげられなかった…っ、私ばっかり、酷いことされたって顔して…っ、なんで、なんで…ッわたしをせめないの」って震える声で吐き出した香澄ちゃんに我慢できるはずが無かった。
先程香澄ちゃんがしてくれたように、大きな両手で頬を包んで唇を重ねる。何度も、何度も、呼吸を奪うようにキスをする。好き、愛してる、好き、大好き。息をするように、愛の言葉を吐いては飲み込む。
七年間、積もり積もった愛を伝える為には、一度や二度のキスでは足りなかった。「香澄、香澄…ッ、あいしてる、」って瞳にどろりと愛を溶かした萩原に応えるように香澄ちゃんが喉を鳴らす。
「ん…っぅ、すき、はぎわらさん、だいすき、」って縋るように萩原の首に腕を回した香澄ちゃんに気を良くした萩原が全てを喰らい尽くすように、口付けを深く、重く、そして何よりも甘く変えていく。
「おれに、ぜんぶちょうだい、香澄」って指を絡めるように萩原が手を繋いでキスをすれば 「はぎわらさんしか、いらない。わたしも…っ、ぜんぶほしい、」って香澄ちゃんもぎゅうっとその手を握り締めてキスをする。七年の空白を埋めるように、二人は言葉を、唇を、体を重ねた。