ちゃんと吹っ切れた時に

「まだ、私のことを好きでいてくれるかもって信じてたいからあの人のことは、探さなくていいです」って泣きそうな顔で笑った香澄ちゃんに安室は何も言えずに「分かりました。貴方がそう望むのなら僕からは何も言いません」って微笑み返した。

萩原は警察官になると言っていた。きっと探偵をしている安室なら警察官に知り合いの一人や二人はいるだろうと、香澄ちゃんは分かっていた。安室に頼むことで、彼とまた出会えるかもしれないと淡い期待を抱いたのも確かだった。

けれど、もしも彼と再会した時に、彼の傍に自分じゃない女の子がいたとしたら。そう考えただけで怖くて、泣きたくて、どうしようも無かった。

それならいっそ、今までと同じように彼がどこで何をしているのか知らないままで、記憶の中の彼に縋る方が幸せだと香澄ちゃんは思った。申し出てくれた安室に申し訳ないと思いながら「せっかく、協力してくれたのに、ごめんなさい」って眉を下げた香澄ちゃんに安室がふわりと笑う。

「いえいえ。僕は何もしてませんよ。むしろ、そんな顔をさせてしまってすみません」って安室が眉を下げて自分の目の下を人差し指でとんとん、と叩く。

「クマ、出来てますよ。昨日、あまり寝てないでしょう?」って言えば「やっぱり、分かりますか?」って香澄ちゃんが困ったように肩を竦めるから「ぱっと見は分からないと思いますよ」って安室がくすくす笑う。

「私がちゃんと吹っ切れた時にまたお願いしようかなって思ってます」ってまっすぐに安室を見た香澄ちゃんの目に迷いは無くて「その時は、是非お手伝いさせてください」って安室が安心したように笑った。
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