そっか、常連さんなんだ

「誰かお探しですか?」って首を傾げた安室に香澄ちゃんがハッとした顔をして「い、いえ…!ごめんなさい、きょろきょろしちゃって…迷惑ですよね…」って眉を下げるから「いえ、お客様も少ないですし、気にしないでください」って安室が微笑む。

アイスティーのグラスを両手でぎゅっと握り締めて泣きそうな顔をする香澄ちゃんに「何か、あったんですか?」って安室が聞けば、きゅうっと眉間に皺を寄せて「この前、あの人に似た人を、見かけて…」って呟くから安室が目を見開いて「先日、お話していた方ですか?」って優しく尋ねる。

こくり、と静かに頷いた香澄ちゃんに「探していた人に会えて嬉しい…という訳ではなさそうですね」って安室が肩を竦めれば「本当に、その人かどうか分からないんです。でも、雰囲気とか、その…匂い、とか、同じだった気がして…」って香澄ちゃんが小さな声で言うから「声をかけたりは、しなかったんですか?」ってグラスを拭きながらゆっくりと尋ねる。

何度か口を開けたり閉じたりしてから「…でき、ませんでした」って呟いた香澄ちゃんの瞳にじわりと涙が浮かぶ。「もし、忘れられてたらって思ったら…」って言葉を途中で途切れさせた香澄ちゃんに安室がふわりと微笑む。

「怖いですよね。自分ばっかりだったら、って思ったら足踏みしてしまうのも仕方ないと思います」って柔らかく笑った安室に「…安室さんでも、そんな風に思うんですか…?」って香澄ちゃんが驚いた顔をするから「ははっ、勿論。僕も人間ですから」って安室がくすくす笑う。

「声、かけたら良かったなって後悔してますか?」って安室に見つめられて眉を下げた香澄ちゃんが「…分かんないんです」って震える声で呟く。

「会いたいけど、会いたくないんです…」って言う香澄ちゃんに「会いたくないのは、忘れられていることが怖いから?」って小さな子に話しかけるようにゆっくりと安室が言えば、こくりと頷かれる。

「忘れられてないって分かったら、会いたいですか?」って言う安室を泣きそうな顔でじっと見た香澄ちゃんが唇を噛み締める。それからふるふる首を横に振って「あい、たくない」って小さな声が零れ落ちる。

驚きで目を見開いた安室が「会いたく、ないんですか?」って確認するように聞けば、しっかりと首が縦に振られる。「彼が、香澄さんを忘れていなかったとしても?」って聞いた安室に「覚えててくれたとしても、きっと、あの人はもう、あの時と同じ目で私を見てくれないですから」って香澄ちゃんの声が震えて、目から涙が零れ落ちる。

「あの時と、同じ目…ですか?」って困ったような顔で首を傾げた安室に「困らせちゃってごめんなさい」って香澄ちゃんがぎこちなく笑みを浮かべて立ち上がる。「いっぱい、相談に乗ってくれてありがとうございました。もう、本当に平気なので」って無理やり笑って見せた香澄ちゃんが会計を済ませて店の扉を開ける。

「ご馳走様でした」って安室に頭を下げて外に出ようとした香澄ちゃんだったけれど、同じタイミングでお店に入ろうとしていた人とぶつかりそうになって、何か言いたげな安室から逃げるように「っ、ごめんなさい」って小さな声で謝った香澄ちゃんが足早にポアロを離れる。

店内に入って来た見慣れた客に「いらっしゃいませ」って笑いかけた安室だったけれど、正直な所心臓が口から出るかと思った。

「安室さん、今の子、知ってる子?」って香澄ちゃんが向かった方向をじっと見ながら淡々と尋ねる萩原に安室は勿論、一緒に来ていた松田もひやりと冷たいものが背筋を流れた。

「知っている、と言ってもポアロの常連さんってことくらいですよ。どうかされましたか?」って引き攣りそうになる頬を押さえながら尋ねれば「へぇ…そっか、常連さんなんだ」って萩原がにこりと笑う。

「おい、さっさと入れよ」って松田が萩原の背中を押せば「あぁ、ごめんごめん」っていつものようにへらりと笑った萩原が店内に足を踏み入れる。

そして、先ほどまで香澄ちゃんが座っていたカウンターをじっと見つめて「安室さん、さっきの子って、何飲んでたの?」って再び安室に笑いかけた萩原に、とうとう表情をキープできなくなった安室がひくりと頬を引き攣らせる。

「…さすがに、それはちょっと」って引いたような顔をする安室と同じように表情を引き攣らせた松田が萩原の頭をひっぱたく。「マジで手錠かけるぞ、お前」って怪訝な顔をした松田に「え〜?まだ何にもしてないじゃん」って萩原がへらへら笑う。

「まだって何ですか。何するつもりですか」って安室がジトリと萩原を睨み付けて「お前もう出禁になれ」って松田も同様に萩原を睨み付ける。そんな二人の視線を物ともせず、萩原はにこりと笑ってアイスティーを注文した。
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