(Side:萩原)
ごめんなさい、と何度も謝りながら俺の言葉を遮るようにキスをする香澄ちゃんは、触れたら壊れてしまいそうなほど危うくて、されるがままキスを受け入れた。好きな子からのキスなんて嬉しくない訳が無い。
けれど、状況が状況なだけに手放しで喜ぶことも出来なくて。涙で濡れた瞳が、ぼんやりと俺を見つめる。じっと見つめ返せば、たちまち香澄ちゃんは真っ青な顔で、わなわなと唇を震わせる。
ごめんなさい、と紡ごうとした唇を今度は俺が塞いで、行き場を失った手に指を絡める。逃げ惑う舌を捕まえてゆっくり深く絡めれば、香澄ちゃんがびくりと肩を揺らす。さっきの積極的な姿も可愛かったけど、俺に翻弄されてる姿も可愛くて、つい虐めたくなる。
絡めた指で手の甲を撫でて、もう片方の手を香澄ちゃんの後頭部に回す。もっと深く、呼吸を奪うように、余計なことなんて考えられなくなるように。じわり、じわりと、キスを深くすれば香澄ちゃんの体から力が抜けていく。
「さっきまであんなに積極的だったのに、もうしてくれないの?」と香澄ちゃんをベッドに寝かせて覆い被されば、先程までの真っ青な顔はどこへやら。真っ赤な顔で「ぁ…っ、やだ、まって…はぎわらさん…っ、まって、」と涙目で俺を見上げてくる。
そういう顔が、一番男心を擽るって分かってんのかね、この子は。「最初にキスしてくれたのは香澄ちゃんじゃん」と唇を撫でれば、再び顔色が悪くなってはらはらと涙が溢れ出す。
「ひ…っぅ、ごめ、なさい…っ、ごめんなさい、萩原さんの優しさを、利用するようなことして…っ、」と涙を流す香澄ちゃんの頬を両手で包んで、言葉を遮るように口付ける。「香澄ちゃん、好きだよ。言ったでしょ。香澄ちゃんのことが、大事で、大好きって」と目元にキスを落として涙を舐めとる。
「好きな子だから優しくしたいし、好きな子だからずっと一緒にいたいんだよ。同情とか、そんな気持ちで香澄ちゃんと一緒にいたい訳じゃない」と今度は額にキスを落とす。
「なん、で…だって、」と戸惑ったように視線を泳がせる香澄ちゃんの鼻先にキスを落として「好きだからだよ。どうしようもなく好きで、好きで好きで堪らなくて、香澄ちゃんが俺のことを好きになってくれたらいいなってずっと思ってたんだ」と肩を竦める。
香澄ちゃんが、自分を酷い女だって、ズルい女だって言うけれど、俺の方が酷くてズルい男なんだよ。弱ってる香澄ちゃんの傍にいたら、俺を頼ってくれるようになるかなって。俺への気持ちが恋心に変わったらいいなって、思ってたのは事実だ。
「だから、謝るのは俺の方」と眉を下げれば、香澄ちゃんが困ったように眉を下げる。「好きだよ、香澄ちゃん」と唇にキスを落としてじっと目を見て「この先、何があってもずっと一緒にいるよ。俺が、香澄ちゃんを守るから、一緒にいよう」と告げれば、香澄ちゃんの瞳から綺麗な涙が零れる。
「うん…っうんっ…!いる、いっしょにいる、すき…っ、だいすき…!」と首に手を回してしがみついて来る香澄ちゃんを抱き締め返せば、首筋に頬擦りをしながら香澄ちゃんが好き、好き、と何度も呟く。
ここが病室のベッドじゃなかったら丸ごと食べていた所だが、ここは鋼の理性で背中を撫でるだけに留める。首筋に落とした口付けは、我慢の証拠として許してもらいたい所だ。
中々離れてくれない香澄ちゃんの背中をとんとん、と叩いて「香澄ちゃん、そろそろ看護師さん来ちゃうんじゃない?」とやんわり離れるように促せば「やだ」と抱きつく力が強くなる。
「やだかぁ」と嬉しさで緩んでしまう頬を我慢することなく、ニヤニヤと笑みを浮かべながら香澄ちゃんの背中を撫でる。とは言え、病人を襲っているように見えるこの状況は、俺の立場的にはあまり良くない。
どうにか香澄ちゃんを傷付けずに一度距離を取りたい。「でも見られちゃうよ?いいの?」ともう一度背中を叩けば「やだ」と香澄ちゃんが返事をする。小さな子供みたいにいやいや、と首を横に振る香澄ちゃんにふは、と笑いが込み上げてくる。
「じゃあさ、ちょっとだけ姿勢変えさせて?大丈夫、すぐぎゅってしてあげるから。ね?」と笑いながら言えば渋々と言った様子で香澄ちゃんが手を離してくれる。「ありがとう、香澄ちゃん」と頭を撫でて額にキスを落とせば、嬉しそうに香澄ちゃんが頬を緩ませる。
「ここ座ってもいい?」とベッドの端っこを指差せば、香澄ちゃんの首が縦に振られて、そっと腰を下ろして香澄ちゃんの肩をぎゅっと抱き寄せたタイミングで扉がノックされて、お昼ご飯が乗ったお盆を持った看護師さんが入ってくる。
目の前に置かれた食事を見て、不安そうに瞳を揺らした香澄ちゃんに「大丈夫。ずっと一緒だよ」と笑いかければ、ホッとしたように息を吐いた香澄ちゃんがふにゃりと笑う。その表情があまりにも可愛くて堪らず唇に吸い付いてしまった俺は悪くない。
突然のキスにぽかんとしてから顔を真っ赤に染めて「いま、なんでちゅーしたんですか…」と拗ねたように唇を尖らせる姿が可愛くて、俺は再びキスをした。