いつ殺意に変わってもおかしくない感情

安室さんが調べた結果、彼女はどこにでもいる普通の大学生だと言うことが分かった。「聞けば聞くほど不気味だよね」と困った顔をした萩原さんがカップを傾けて「普通の、ねぇ…」と松田さんが頬杖をついて安室さんを見る。

「普通の、です。萩原さんの言う通り、調べれば調べるほど変なんですよ」と安室さんが肩を竦めて言うから、得体の知れない気持ち悪さに思わず自分の腕を擦る。彼女に会ったのは、あの日が初めてだったはず。

「私が、覚えてないだけで、何かしちゃったんですかね」と小さな声で呟けば、萩原さんたちが何とも言えない顔で私を見る。「そんなこと無いよ、って言ってあげたいんだけどねぇ…」と萩原さんが眉を下げて私の頭をぽんぽんと撫でて「それも、あり得ない話じゃねぇんだよな」と松田さんが苦虫を嚙み潰したような顔をする。

「香澄さんを疑ってる訳では無いんですが、本当に彼女のことは知らないんですよね?」と首を傾げた安室さんにこくりと頷く。「ごめんなさい…本当に、覚えが無くて…」と視線を落として俯けば、頭の上にぽん、と手が乗る。

「香澄さんは何も悪くないですよ。すれ違っただけの人、たまたま電車で隣の席だった人、同じ時間にお店にいた人。そんな人たちのことを、全員覚えている人なんていませんから」と優しい顔で微笑んだ安室さんに「…ありがとう、ございます」とホッと息を吐く。

「何か起きてからじゃないと手が出せないってのがもどかしいよね」とため息を吐いた萩原さんにきょとりと首を傾げれば、苦笑いを浮かべた萩原さんが私の額を人差し指でつん、とつつく。「あのね、今一番危ないの香澄ちゃんだって分かってる?」と肩を竦めた萩原さんの言葉の意味が分からなくて更に首を傾げてしまう。

「私、ですか?」と呟いた私に「あなたに向けられていた憎悪は、いつ殺意に変わってもおかしくない感情ですよ」と安室さんも苦笑いを零していて、松田さんに至ってはマジかコイツ、と言わんばかりの顔で私を見ている。

けれど、彼女はあの時確かに『あの二人は、死んでなきゃいけないのよ!』と言っていた。だから、彼女は二人の死を望んでいるのだと思っていた。「え、でも、萩原さんと松田さんが死んでないといけないって…」と戸惑いながらも私の考えを口にすれば「アンタのせいで、って言ったんだろ。その女」と松田さんが私を見る。

「ソイツがどんな世界を望んでるのかは知らねぇが、自分が思い描いていた理想の世界をぶっ壊したのがお前だってソイツは思ってんだろ。だとしたら、狙われる可能性が一番高いのは俺らじゃなくてお前だ」とハッキリ言い切った松田さんに思わず目を見開いた。

自分が、狙われているなんて思っていなかった。確かに背筋が凍るほどの血走った目を向けられたけれど、彼女が萩原さんと松田さんの死を強く望んでいることが、分かってしまったから怖かった。いなくなってしまったら、何かあったらどうしようって。ぽろ、と涙が零れてひくっ、と喉が引き攣る。

「松田さん、言い方ってものがあるでしょう」「そんな怖がらせるような言い方する必要ないじゃん」と安室さんと萩原さんに非難されて「んな事言ったって、本当の事だろうが」と松田さんが眉間に皺を寄せる。

「怖がらせるようなこと言って、ごめんね」と頭を撫でてくれる萩原さんに、ふるふると首を横に振る。違うの、そうじゃないの。一度零れてしまった涙は中々止まってくれなくて次から次に溢れ出してくる。必死に手で拭って何とか言葉を紡ぐ。

「よかった…っ、ねらわれてるのが、はぎわらさんとまつださんじゃなくて…よか、ったぁ…っ、」と泣きじゃくりながら告げた私に三人が驚いたような顔をする。「俺たちが狙われてるかもしれないって思って、あんなに怖がってたの?」と困ったような、泣きそうな顔で私の顔を覗き込んだ萩原さんにこくりと頷く。

「……バッカじゃねぇの。俺らの事より、自分の心配しろよ」と松田さんがぶっきらぼうに告げて、私の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。「本当に…優しい人ですね、香澄さんは」と安室さんも優しく笑いながら私の頬を伝う涙を拭ってくれるから益々涙が止まらなくなって、お店にやって来たコナンくんに「安室さんたち、何で香澄さんのこと泣かせてるの?」と言う冷ややかな目を向けられることになってしまった。
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