18
姫乃がいなくなった室内ではギョクレンと竜也の二人が残されていた。
静まり返る空間に、射るような視線を感じる。
決して目を合わせないが、ギョクレンが物凄くこちらを見ている事がわかった。
ワープしたとは言え、入浴中勝手に入ったのは自分だ。
不可抗力とは言え、申し訳なさが拭えないのは事実である。
そうだとしてもあの時に切りつけられた記憶が頭の中で蘇ってしまう。
竜也は決して怒ってる訳ではない。
だとしてもやはり一度感じた恐怖は消えないのも確かだった。
ギョクレンからの視線に逃れようと少し後退る。
するとそれに比例して、同じ距離だけ縮めて来た。
(えぇ…?何…??めちゃくちゃ怖いんだけど…)
竜也は恐る恐るギョクレンへと視線を向ければ、感じていた通りばちりと互いの目が合わさった。
逃がさないと言わんばかりの強い視線。
竜也の体が小さく震えた。
(無理無理無理無理!!白川、俺無理だってば!!めちゃくちゃ睨まれてるし、何も話さないし、殺されるって!!)
竜也は顔面蒼白になりながら、ガタガタと震えれば、ギョクレンはばつの悪そうな顔をする。
その体に触れようと手を伸ばすと竜也から声にならない悲鳴があがった。
ギョクレンは伸ばした手を宙に浮かせ、そのまま固まる。
将軍とまで恐れられた男が、ひとりの少年が怯えただけで動きを止めるなどかつてあっただろうか。
いや、ない。
刺客、敵だと判断すれば、老人だろうが子供だろうが戸惑う事なく手にかける。
そしてそれが共に戦った仲間や家族であろうとも。
ギョクレンを知っている者が見たら、間違いなく驚愕するだろう。
それ程に今の光景はあり得ないのだった。
(白川ぁぁぁ!!!?)
ここにいる筈のない、唯一の味方である名前を呼ぶも本人は現れず。
竜也の目には恐怖から涙が浮かんだ。
本人が本気で怖がっている所申し訳ないが、ギョクレンにはとても健気で可愛らしく映ったのだ。
非力な小動物のように震え、庇護欲をかきたて、母性本能は存在しないにも関わらず、この手で守りたいと強く感じた。
ギョクレンはその場に片膝を付き、頭を下げた。
あまりにも素早い動きに、竜也は殺られると思い、心の中で結界を唱える。
「っ!?」
すると竜也から紫色の魔法陣が出て来て、ギョクレンの手前で止まった。
丸いそれが巨大化し、二人の間に壁を作るように光り出す。
それには竜也だけでなく、ギョクレンも驚き、互いに目を大きく見開いた。
(……あれ?俺、もしかしてこっちに来てから力強くなってる…?しかも、ギョクレンってやつ?殺そうとした訳じゃない感じ?えー…マジ?だとしたら、俺、めっちゃ失礼じゃん…)
ギョクレンが英国スタイルの膝まずく様に、竜也の顔色が再び真っ青に染まる。
「……、…結界…!?……こんな高度な術式を詠唱無しで使えるのか…?」
ギョクレンは心底驚いたとばかりに竜也を凝視する。
初めて見る守護魔法。
この国には存在しない物だ。
攻撃魔法でもこんな大きく部屋すら飛び越える程の力はない。
これが神子の力なのか。
そう思わずにはいられない程の威力だった。
(……詠唱って、いでよ壁!!みたいなやつ?えー…何それ、漫画の世界じゃん。まぁ、唱えても唱えなくても出る時は出るし、これはジジイから伝授されたものだから、みんな使えるかはわからないよな)
うーんと竜也が唸れば、ギョクレンが未だに驚いた顔で凝視しているではないか。
「……スイレンの言っていた事は確かなようだな。黒野、首の傷…すまなかった」
片膝つけたまま、ギョクレンが謝罪する。
武道を極めているのだろうとわかる程に筋肉質で、頭を下げた事でよくわかるサラサラとした長くて綺麗な銀色の髪を後ろでひとつに結っていた。
その一連の動きも流れるように美しく、芯の通った人間なのだろう事がわかる。
声を出せない竜也の返事を確認するように顔を上げれば、互いの視線が重なり合う。
眼帯で片目は見えないが、何度見ても美しかった。
竜也は慌てて首を横に振り、自らの意思で結界を解く。
それにより許された事を悟り、ギョクレンがゆっくりと立ち上がった。
「黒野、…例え俺がナイトでなかったとしてもこれから永遠と守る事を誓う」
そう言って竜也の顎に手を添え、その柔らかそうな唇を自らの親指で確認で撫でるように触れる。
そんな場所に手を添えられるとも、指で撫でられるとも思ってなかった竜也は体をびくりと反応してしまう。
目の前に迫る美人な男の顔。
次に何をされるのかわからない程、学習能力が無い訳ではない。
「っ…!!」
竜也は手でその唇をガードすれば、拒絶されるとは思ってもなかったギョクレンの鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
(……ようやくわかってきた。ここはもう俺の概念なんか通用しない無法地帯だって事がな)
それなりに良い雰囲気だと思っていたのはギョクレンだけであり、竜也はこれ以上男に口づけされるのはもうごめんである。
「………黒野。何で止めるんだ」
(何でも何も止めるに決まってるだろうが!!)
言葉に出来ないもどかしさから、竜也はギョクレンを睨みつけた。
そして、ダメだと言わんばかりに首を横に振る。
「確認方法はこれしかない」
(そんなの知らねぇよ!誰だよ、決めた奴!)
それでも竜也が首を振るものだから、ギョクレンが小さく舌打ちする。
そして素早い動きで竜也の手首を掴み、口元にあった手を退かすと二人の間に遮るものがなくなった。
「っ!!?」
しまったと竜也が思う暇すらなく、ギョクレンによって唇は塞がれたのだった。
やっとこさギョクレンとのちゅー出来ました。ここまで長かった!寄り道したのは自分だけどさ、もっとサクサク行くつもりが、こんな長くなっちゃったよね。あくまで脇役ポジだから、ヒロインは姫乃なんだけど、持ち前の平凡受け主義の管理人が書くので総受けになるかもしれないし、固定かもしれないし。悩みどころよね。今後は竜也のナイトは誰なのかと少しでも皆さんに楽しんでもらえたら良いなと思ってます(笑)姫乃を今後どうするか、何パターンはあるけど、さて、どうしようか?
2024.10.13
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