tori


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結果的に言うとギョクレンは無事だった。
ただ声帯を傷つけ、首元の傷が痛々しい。
ドクターによれば、ナイフのような鋭い刃で斬りつけたもの、らしい。
吐血は声帯を傷つけたから出た物で、咥内は綺麗なものだそう。
覚からそう聞かされ、竜也の頭に浮かぶのは入浴中に起きた事だった。
あの時とまるで同じ状況であり、そして違うのは竜也の傷が見事に治っていた事。
さらに驚く事に、ギョクレンの傷を見たドクターから言われた言葉は、竜也を診た時と傷口が全く同じだと。
ギョクレンが言っていた肩代わり、そんな筈はないと言いたい所だが、ここまで材料が揃えば信憑性が増した。
それだけで全てを理解してしまう。
これはきっと神子の力なのだと。
キスして回復と色んな人から聞いていたが、ギョクレンは違った。
ジゼルや珠里は回復したのに、何故ギョクレンは負傷しなければならなかったのか。
あの二人とギョクレンでは何が違うのか、その疑問だけが残る。

「神子様、少し良いかな?」

スイレンの声に顔をあげれば、ギョクレンと全く同じ顔があった。

「…うん」

返事する竜也に、スイレンの瞳が微かに細まる。

「岸部、少し神子様と二人にしてくれない?」

そう言われ、覚を含めた執事達が部屋を出て行った。

「少し気になる事があって、聞きたいんだけど大丈夫かな?もし、しんどいようなら、もう少し時間空けるけど」

優しく微笑む姿に、竜也は思う。
自分のメンタルの心配もしてくれるなんて、本当大人な対応だなと。
弟があんな目にあって、憎まない筈ないのに。
スイレンはとても優しく穏やかな空気を放っており、竜也はそれにより少しだけ心が落ち着いたのだった。

「神子…、って呼ばれても二人もいるから、それだとわからないよね。君の事は神子様と呼ぶから、それでわかりやすいかな?それで本題なんだけど、姫乃とは知り合い?」

竜也はゆっくり頷く。

「どういった関係なのかな?」
「高校のクラスメイト」

聞いた事のない言葉に、スイレンが小首を傾げる。
こちらの世界には存在しない言葉だった。

「何て言えばいいのか…。仲間か?…成人するまでに三年間通って大人数で集団生活をして学ぶ、それが学校。クラスメイトとはその学校で一緒に支え合っていく仲間って言えばわかるか?」

その言葉に今度はスイレンが頷いた。

「俺達の世界にはない風習なんだろうね。わかりやすく説明してくれて、ありがとう。あと答えずらいとは思うけど…神子様の体に複数の跡があったよね。あれはその仲間達がした事?それともどこかに監禁されてたとか、そんな理由で体を開かなくてはならない状況下にいたのかな?」

その言葉に竜也が目を見張る。
スイレンは何を言っているのだろか。
跡とは何の事だろうか。
仲間がした事とか、監禁とか、体を開くって、まるで自分が強姦された、または娼婦をしてるかの言い方に驚きしかなかった。

「……そうだよね、答えにくいよね。こんな嫌な質問、ごめ…」

そう言いかけた所で、竜也が手で違うとジェスチャーした。

「待って!跡って何?俺、監禁とか、仲間から何かされたとか、体を売ったりしてないから…!」

顔を真っ赤にして首を大きく左右に振った。
その様子だけで、スイレンの杞憂で終わる事がわかったが、あまりにも竜也が可愛い反応をするものだから、虚をつかれ、意外そうな顔をする。

「あれ…?もしかして、気づいてないの?首から背中にかけて、複数のキスマークあるんだけど」

(っ!!?あれかぁぁ!!!)

珠里によってつけられた跡に、脱力する。
そんなにガッツリついてるとは思わず、むしろあれで跡が付くのかと驚きしかない。

「っ、あれは…その、ここに来る前に皇子様にナイトかどうか確かめる為に遊ばれたと言うか…」

屈辱的とでも言うように、竜也が自らの唇を悔しそうに噛む。

「っ!!?まさか…!!」

スイレンの目が大きく見開く。
一国の皇子がこんな小さな子供を玩具にするなんて事があってはならない。
夜這いや貴族狙いで既成事実を作る者たちはたくさんいるが、その逆は皆無。
合意でないなど、そんな事が通用する国が存在するのか。
そういう事を望んでしていなかったとすれば、神子であるってだけで無理強いされたと言う事になる。
滅多に現れない存在を自欲目的で利用しようとしていた、そう考えただけで虫唾が走る。
スイレンの顔が般若のようになり、竜也はびくりと体を震わせた。
この時、二人の中で大きな誤解と言う名のすれ違いが起きていた事に全く気づいておらず。
後に、これにより更に話はややこしくなる問題へと発展するのだが、それはもう少し先である。

「姫乃は17歳だと言っていたが、神子様は何歳?13歳くらいかな?」

その言葉に竜也は項垂れる。
今日は何でこんなにも幼子に思われるのだろうか。
ここの人間が自分達の世界と違い、巨大なのは理解した。
だが、さすがに13はないだろう。
確かに姫乃はとても細身でスレンダーで女の子にしては身長が高い。
並んでみればわかるが、少しだけ自分よりもお姉さんに見えるのは百歩譲る事にしよう。
それにしても、だ。
13って、どれだけ童顔なんだよと思うのだった。

「18」

その言葉に前回の珠里達同様、驚愕するスイレン。
わなわなと体を震わせ、自らの胸元の洋服を握った。

「……神子様、今すぐ脱いで!成人してるなんて、聞いてない…!」
「………は?」

竜也がすっとんきょうな声を上げれば、スイレンの目が恐ろしい程に据わっていたのだった。

「妊娠してるかもしれない!すぐ検査するよ!」
「!!!?」

(え!?キスマークで妊娠するの!?え、…嘘だろ!?あれだけで、俺、妊娠したの!!?)


ニセ神子、まさかの妊娠疑惑。


妊娠の定義が違うかもしれない説。って、絶対そんな事ないけど、何だかんだ言うて、竜也は良いように流されて色々されちゃうんだろうなぁ。


2024.10.15

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