4
どうやらタイガはひとりで生きて来たらしく、竜也と2人で暮らすにはやや狭いが不自由にならないくらいの小屋へと案内された。
そこは山奥であり、もちろん人の気配はない。
何せ、木の上に建てられた小屋だからか、天敵も襲っては来ない安全な場所だ。
埃や泥塗れになったから、体を洗いたいと言ったら、少し距離はあるが温泉へと連れて来られた。
「わぁ…、すっげぇ絶景」
崖から見降ろす景色は森や川が広がるとても綺麗な自然だった。
「タツヤ、うれしい?」
ふっと微笑むタイガに、竜也は満面の笑顔で返事をする。
それが余程嬉しかったのか、タイガが甘えるように抱きついた。
「オレのゴシュジンサマ」
大きな犬に懐かれたような気持ちになり、よしよしと背中を撫でる。
それを気持ち良さそうに目を閉じて受け入れる様は本当に犬そのものだなと思った。
「さ、入ろ!」
そう言って竜也が洋服を脱げば、タイガからの視線が刺さる。
「どうかしたか?」
そう問えば、タイガが目を細めて、眩しそうにするではないか。
「タツヤ…きれい」
自分よりも遥かに小さな竜也の細くてきめ細やかな体にタイガは再び眩しそうに見つめる。
「え?いやいや、タイガの方が凄いじゃん」
そう言って、竜也はタイガのシックスパックに割れた腹筋に触れる。
そこは自分と同じ肌質であり、毛がないがとても硬く引き締まっていた。
「格好良いな、俺もこんな風になりたい」
少年のようなキラキラした瞳を向けられ、タイガが頰を染めて照れる。
生まれた頃からひとりで育って来て、誰かに褒められた事などなかった。
こんなに優しく声をかけてもらったり、当たり前のように傍にいてくれる存在が愛しいなど知らなかった。
名前をつけてもらっても奴隷として一生を迎える者が多い、残酷な世界でタイガは思いやりのある優しい主に仕えて良かったと本気で思う。
遠くからでも聞こえる同胞の叫び。
嗅覚、聴覚に優れているタイガだから聞こえたのかもしれない。
毎日耳にする恐怖やマイナスの言葉の数々。
それは小さなタイガにもわかる程に辛い嘆きだった。
「あれ…?これって紋章??」
タイガのアンダーヘア辺りに黒い魔法陣が紫色に光っていた。
自分が出す魔法陣の色に似ており、そう言えばナイトの証としてキスすると浮かぶとか言っていたような気がすると思い出す。
「……ナイト、なのか…?」
まさか先程のキスでギョクレンが頭に浮かんだのは、あの時と同じだったからなのかもしれない。
だとしたら、ギョクレンも自分のナイトである事が判明する。
今は確認しようがないので、一刻も早くギョクレンに会いたくて仕方なかった。
もしかして竜也のナイトだったから、身代わりになったのかもしれない。
喉が傷つき、声が出なくなったのに、ギョクレンの口づけで竜也は治り、何ともなかったギョクレンが声を失ってしまった。
神子はナイトに力を与えると同士に、怪我や悪い物も渡してしまうのではないか。
そんな考えに至る。
やはりギョクレンにもう一度会って、確かめる必要がある。
もしかしたら、神子が力を与えるならば、ギョクレンの声も元に戻るかもしれない。
逆に竜也が怪我をしていたら、絶対にキスはしてはいけないと言う事に結論づけた。
「タイガ、聞いてもいい?ここってもしかして水国じゃなかったりする?」
タイガはハテナマークを浮かべ、首を傾げた。
「うーん…わからないか。じゃあ、この国の名前とか、ここの名前とかわかる?」
「わかる、ライコク。タツヤみたいなひと、あまりいない」
タイガの言っている意味がわからず、今度は竜也が首を傾げる番だった。
「…俺みたいな人って?」
「にんげん」
その言葉に竜也の目が大きく見開いた。
「え!?俺みたいって、もしかして人間自体がそんなに存在しないって事!?」
「うん、すこしだけしかいない」
竜也はその場に崩れるようにうずくまる。
「えー…、嘘だろ?マジかぁ…。え、じゃあ、タイガみたいに半獣が多いって事?」
その言葉に、タイガは首を横に振った。
「はんじゅう、キンキ。みんな、りっぱなケモノ。はんじゅうはダメ。だから、オレひとり。はんじゅう、なまえつけてもらえなかったら、いっしょう、ちいさい。いまわしきそんざい」
その言葉を聞いて、竜也は思う。
片言だけど何となく言っている事はわかる。
半獣とは人間と獣のハーフであり、元々は存在してはならぬ者。
獣しかいない国に、人間がやって来たのか、連れてこられたのか、そのどちらでもないかもしれないが何にせよ、人間はそんなに存在しないものらしい。
だから、名前を付けてもらてなかったら、大人になれず、永遠と子供の姿のまま一生を終える。
それを聞いて竜也はサーっと顔色が悪くなった。
もし自分はタイガに見つけてもらえなかったら、熊やその他の獣達に食べられてたかもしれないと。
あの時に会った熊は、確実に竜也を食べる勢いであった事から、人間は食料なのかもしれない。
そんな人間と一緒になって、子供が生まれるとこの国では生きていくには厳しく、禁忌を犯した両親達は。
そこまで考えて、自分の思考を止めた。
今は考えたって仕方ない。
こうしてタイガに出会えた事が自分にとって奇跡に近いのではないだろうか。
やはり異世界と言うのは生きていくには相当恐ろしい場所なんだと再確認したのだった。
2025.01.09
- 34 -
*前次#
ページ: