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ジゼルの背中にいた竜也は、ひょこっと顔を出して、黎椎を見つめた。
視線を感じ、ジゼルから視線を逸した先にいたのは平凡な少年である。
自分を見つめる瞳は真剣で、その奥にある真っ黒な中にキラキラとした輝きと、そして何とも言いようのない熱量を感じた。
真っ黒な瞳は想像以上に綺麗な上、見た事もない輝きを放っている。
ブラックダイヤモンドのような光りに、黎椎は吸い込まれるような不思議な感覚に陥った。
これがジゼルの言う神子としての証なのだろうか。
平凡だと思っていた少年を意識した途端、まるで神々しいまでの存在に思えて来たから不思議である。
「ジゼルさん、庇ってくれたのにごめん…。黎椎さんは悪くないし、ジゼルさんを信用してない訳じゃないから。…誰だって、こんな変な男が来たら警戒するし、疑って当然だよ…。むしろ、何かごめん。俺のせいでこうなって…」
竜也はジゼルの腕に手を添え、申し訳なさそうに伝える。
眉を下げ、瞳を震わせながら、必死に二人の間に入ろうとする姿は何と健気なものだろう。
黎椎も目が合った瞬間感じたが、あの瞳で見られたら、どんな事でも許せてしまうだろう。
それだけの魅力があった。
当のジゼルはと言うと、何だ、この可愛くて、いじらしくて、守ってあげたくなる生き物は、と胸がキュンと高鳴っていたのだ。
その様子を近くで見ていた黎椎が同情するような視線を送った事は誰も知らない。
「挨拶…するべきだったよな。今更だけど、俺、黒野竜也です。黎椎さんに認めてもらえるよう、一生懸命頑張るから、よろしくお願いします!」
竜也が大きくお辞儀をし、ぎこちない笑顔を向ける。
まだ子供だろうに、こんなに気を遣えるなんて、良い両親に育ててもらったのだろう。
敬語が使えないのは、多分、裕福ではない家庭に育ったかもしれない。
ジゼルと黎椎は竜也の身なりを見て、同情していた。
見た事もない洋服だが、土や泥水で汚れており、更には所々破れているではないか。
ここに来るまでに、たくさんの苦労を乗り越えてきたのだろうと。
もしかしたら、人身売買などで売られ逃げて来たのか、はたまた下衆いどこぞの貴族の性奴隷として捕まっていたのか。
色々考えると不憫で仕方なかった。
「こちらこそ、申し訳ありません。ジゼル将軍がお連れした方に、あのような態度を。改めて、お詫び申し上げます。私は李黎椎と申します。今後ともよろしくお願い致します」
黎椎は子供相手に警戒しても仕方ないと思い、先程までの行動を恥じた。
そして何よりこの子は気遣いがあり、空気が読める。
大人でもなかなかわからない事を瞬時に悟り、ジゼルと険悪になったかもしれないのに、仲裁してくれたのだ。
竜也を見て、人を騙すような輩ではない事がこの短い間でわかった。
「珠里様はお部屋にいらっしゃいます。どうぞ、中へお入り下さい。」
そう言って黎椎は門を開け、中へと促す。
警戒心を解いてくれた事に安堵し、竜也は満面の笑顔でお辞儀する。
黎椎もまた無表情ではあるが、同じくお辞儀を返した。
ジゼルが歩き始め、それに着いて行く竜也の後ろ姿を見て、黎椎は故郷にいる同じくらいの弟。思い出す。
どんな時もニコニコとし、人懐こく、気遣い上手な姿が竜也と重なってしまう。
だからだろう、妙に感情移入してしまうのは。
最初はこんな平凡な少年が神子だと聞かされ、信じられない思いでいっぱいだった。
けどこの国に存在しない黒髪、黒眼を見て、黎椎は驚きを隠せなかったのだ。
同時に神子は女性だと教えられていただけに、ジゼルは騙されているとも感じた。
認めざる得ない思いと、認めたくない思いが交差する。
そして、珠里にまで会わせるなどと言う始末。
ジゼルは騙せても自分はそうはいかない。
この城の門番を任せられた者として、守る義務がある。
仕方がない、ここで決着をつけるか、そう思っていたのを早くもジゼルに勘付かれ、どんな重い処分が下されるのかと内心冷や冷やした。
だが、竜也の言葉でジゼルは考えを押しとどめ、それどころかあの少年を見る目はとても優しく、穏やかなもので、そこに特別な感情が芽生えているのだろうと悟る。
神子としての力が竜也にはあるのだろうと思うのと同時に、年端もいかない少年が、自分の弟と同じくらいの子供が、世界を救う為に戦う事を気に病むのだった。
2024.09.25
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