19
獣人の国こと、雷国の門に2人の青年の姿があった。
ひとりは身分を隠すかのように白い布を全身に纏い、もうひとりは大剣を隠しもせずエックスの形に交差させるように背に背負っている。
長さ的に考えても2mはくだらないだろう。
そして何より驚きなのはその刃の太さだった。
30cmはあろうかとおもわせる程の幅と肩にぎちりと食い込む程の負荷、相当な使い手じゃない限り扱えない代物だと言う事がわかる。
それを一本背負うだけでも大変なのに二本も所持しているのだから、門番はもちろん周囲にいる者達が絶句するのは仕方なかった。
金髪で筋肉りゅうりゅうな男の腕を見て、誰もが納得する。
この男は優秀な護衛なのだろうと。
そしてその背後に立っているのが、全身白い布で覆われた白無垢姿の青年だった。
顔はもちろん見えないが、フードの隙間からちらりとみえる青い髪の毛。
彼が身分的には上である事は一目瞭然であった。
「炎国第一皇子、…李黎椎です。先にいるのが第一隊長の珠里です。今回お伺いしたのはそちらでお世話になっている、私の部下であるグエン・ジゼルの身柄を確保です。通して頂けないでしょうか?」
口元に笑みを浮かべ、優しい口調で話しかけた。
だが、それが不気味と言うか、より恐怖を増長させるなど1ミリも気付いていない。
珠里からしたら、全てをわかっていても尚、笑顔で物腰の柔らかい口調は彼らを試しているとしか思えないものだった。
その証拠に、黎椎の言葉を聞いた門番達、そして周囲の者の顔が一瞬にして真っ青に染まるのだから面白い。
「聞こえませんでしたか?では、もう一度…」
先程と違い、がらりと表情を変え、心底煩わしそうに顔を歪める黎椎。
これが本来の彼の姿であり、先程のはちまたで言う愛想笑い、社交辞令なのである。
「ひっ…!!?」
誰が洩らしたのかわからない恐怖の声。
それが合図かのように、黎椎の表情が無表情になり、更に彼らを地獄へと突き落としたのだった。
そんなやり取りをにやにやと面白そうにして見る珠里は笑いを堪えるのに必死である。
本来人前で話す事を嫌う黎椎がぎこちないながらも笑顔で挨拶をし、社交辞令だろうが何だろうがここまでやってくれた。
珠里からしたら感動ものなのだが、どうしてだろうか。
とにかく可笑しくて、面白くて仕方ないのだ。
それをわかっている黎椎はぎろっと珠里を睨みつけ、無言の圧力をかける。
それが獣人の門番からしたら、従者に今すぐ斬りつけろと命令してるように見え、ガタガタと震えながら絶望した顔で腰を抜かしていった。
「おっ…?何だ?どうした?」
珠里が不思議そうに門番を上から見下ろしただけなのに、殺されると思い込み、失禁する者までいる。
「あー…、何か誤解させちまったかぁ…。そんなつもりなかったんだけど、悪かったな」
苦笑いの珠里に対し、表情が物凄く恐ろしい黎椎の両極端さが恐ろしい。
「炎国第一皇子、…李黎椎です。先にいるのが第一隊長の珠里です。今回お伺いしたのはそちらでお世話になっている、私の部下であるグエン・ジゼルの身柄の確保です。通して頂けないでしょうか」
「…あ、そこ…っ!もう一回言う感じなんだ!?真面目か!!」
珠里がぶはっと吹き出し、腹を抱えて笑う。
それに気づいた黎椎が顔を真っ赤にして、再び珠里を睨んだのは言うまでもない。
門番達は慌てて門を開き、黎椎達を招き入れたのだった。
街中を獣人の護衛達が真っ青な顔をしながら、正式な手続きを経て訪れたお客様を安全に誘導する姿は異様なもので、すれ違う獣人達のぎょっとした顔に珠里はニヤけ顔を隠せない。
それもそうだろう。
正式な通行書を発行するには相当な額を支払わなければならない。
この国は言わばぼったくりを平気で行う違法地帯なのだ。
上流階級の人間にしか払えない額をぽんっと出さない限り、この護衛達と共に歩く事すら叶わないのだった。
「こちらがジゼル様がいる楼になります」
獣人達がぺこぺこと頭を下げ、颯爽と消えていった。
「珠里様…一体これに何の役割があるのでしょうか?私には全くわかりかねます…」
これとは身分チェンジの事だ。
珠里が黎椎の身分となり、黎椎が珠里の身分となって第一皇子役をすると言う事である。
名前を変えないのは珠里が何度も黎椎の名前を黎椎と呼び、自分の名前以外に反応しなかったからやむを得ず諦めたのだった。
口を開いた黎椎の言葉に、珠里はきょとん顔で首を傾げる。
「意味?そんなの楽しそうだからに決まってんじゃん。それ以外に何があるんだよ」
「……はぁ…」
にこにこ顔の珠里に聞かなくても知ってたと言わんばかりの黎椎。
「わかってましたけど…。本当、あなたのそう言う所、理解に苦しみます…」
「ん?サンキュー」
「……褒めてませんよ」
はあっと盛大な溜息をつくのだった。
しっかり者の部下とひょうひょうとした皇子。珠里が気前良くて、礼儀作法なんか気にしないタイプだから、部下が堅物になってしまった典型的なパターン。気紛れな皇子様に仕える黎椎は大変だけど、姉さん女房的で案外合ってると思う。炎国組を結構忘れていた自分、ジゼルだけじゃないぞ、他にもいるぞって、やっと出せたと思いました(笑)
2025.06.01
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