25
珠里と黎椎が竜也達のいる部屋へ向かっている最中の事だった。
「あー…、不味いかもなぁ…」
珠里がぼそりと呟いた。
「何がですか?」
黎椎がやや呆れたままの状態で珠里へと視線を向ける。
「んー…、根拠はねぇんだけど、ヤバい気配がこっちに来てるわ」
「……はい?……気配、ですか?」
珠里は大きな溜息をつくと背中にある2本の長剣に手を伸ばした。
「っ…!?」
珠里の構えを見て、ようやく黎椎は理解する。
「…まさか、刺客ですか?」
「まぁ、そんな感じか?んー…、いや、それより質が悪いかもしれねぇな!」
その言葉を聞き、黎椎の背筋に悪寒が走った。
ようやく珠里の言っている意味がわかり、黎椎も腰に添えてある剣を抜く。
(何て禍々しいオーラなんだ。ここまで殺気を隠さない人間は初めてだ…。珠里様に初めて会った時…、いや、それ以上の力だと…?)
黎椎は殺気を放ちながら物凄い勢いで向かって来るひとつの気配に唾を飲み込んだ。
この距離になるまで自分には全く気配など感じなかった。
それなのに珠里にはもっと離れた場所からこの存在に気付いていたのだ。
さすがとしか言いようがない。
(私の主は本当に侮れない男だ…)
ちらりと珠里に視線を向けると口元に笑みを浮かべ、この状況を楽しんでいる事がわかる。
先程までは乗り気じゃなかったのに、急にどうかしたのかと微かに驚く。
「おぉ…、こりゃ堪らねぇ程の別嬪じゃねぇか」
珠里が微かに目を細め、ある一点を見つめた。
黎椎はそこから強い殺気を感じ、歯を強く噛み締める。
すると黄色いチャイナ服を着た、銀髪の美人が物凄い速さでこちらへ向かって来るではないか。
その形相は修羅の如く、半分目がおかしい。
どうおかしいのか問われれば、説明に苦しむが正気の沙汰ではない事は確かである。
様々な相手と闘ってきた黎椎がたじろぐ程の殺気を全身から隠そうともせず、瞳に全くと言ってよい程に輝きがない。
まるで人を殺める事に躊躇しない者のそれに、黎椎の背筋ぞくりと戦慄が走った。
「ほー、すっげぇ美人だけど、こりゃ…マジでやべぇかもなぁ…」
珠里は苦笑いしながら大剣を構える。
片目に眼帯をし、瞳は赤く、整った顔には複数の古傷の跡が残っていた。
引き締まった両腕の筋肉は凄まじく、美人な顔には想像つかない程の太さである。
そこから古傷がいくつもあり、ここまで来るのに相当な実践を繰り返して来た事だけがわかった。
手合いをせずともわかる程の圧倒的強者のオーラ。
珠里は黎椎を見て、相手との力量差を悟ってしまう。
きっと自分達はこの男ひとりに負ける。
それくらい彼から放たれる覇者の雰囲気が凄まじかったのだった。
「ーー!!」
長い廊下を走り続ける男の目の瞳孔が開き、長い槍をいとも簡単に振り回していた。
暗かった照明が男が走る度に人感センサーが反応し、音を立てて明るく灯される。
その速さに圧倒され、早くも珠里達の目前まで迫っていた。
一切無駄のない動きとはこう言う事なんだろうとおもわせる程のものであり、2人の背から冷汗が流れるのは同時だったのだ。
2025.07.20
- 55 -
*前次#
ページ: