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バタバタと近づく足音と共に2人の青年の姿が明らかとなる。
「弟!」
赤目の男ではない、後方から声がしたと思えばピタリと目の前の彼が動きを止めた。
「黒野くんの気配が消えた!そこの色男…いや、マッチョ相手にしてる場合じゃないよー!!何かあったかもしれない!本当に何も感じないんだって…!」
黒色に近い栗色をした髪の男と共に銀髪美人の青年が走り寄って来た。
そして心底困惑した表情を浮かべているではないか。
「っ!?」
先程の異常なまでの空気を放っていた眼帯男が目を大きく見開き、固まった。
「ギョクレン、今はこんな事をしてる場合じゃないよ。一刻も早く神子を見つけ出さないと…」
黎椎はぴくりと反応し、神子と言う言葉に耳を疑った。
もしかして神子とは急に消えた竜也の事ではないだろうか。
珠里の前から突然姿を消し、ずっとその安否を心配していた。
弟をどこか思わせ、庇護欲を誘う無邪気で優しい、幼くて小さな少年。
彼を思い、黎椎は長剣を鞘へとしまった。
「突然、黒野くんの気配が消えるとかおかしいから!こんな事、今まで一度もなかったんだって…!」
「……そうだね。俺は姫乃じゃないから気配とかわからないけど、さっきからずっと…嗅ぎ慣れた臭いにおいがして不愉快だよ…」
姫乃とスイレンの登場により、ギョクレンの殺気が消える。
「っー!?」
(黒野っ…!!)
珠里には全く目もくれず、ギョクレンは驚愕の表情を浮かべる。
そこにあるのは緊迫した空気とかなりの焦燥感。
(お前は俺が守る…!!)
ぎりっと歯を噛み締め、槍がしなる程の勢いで拳を強く握る。
ギョクレンがくるりと方向転換をし、素早い動きで姫乃の指す場所へと消えて行った。
「ちょ…、弟ー!?」
「姫乃、俺達も行こう…」
「えー…、もうさ、あんたの弟…黒野くん馬鹿すぎないー?全然こっち見ないし、言う事聞かないかと思えば、黒野くん関係になると面白いくらい従順なんですどー…。忠犬か?忠犬ハチ公なのか?」
「………よくわからないけど、早く来なよ」
スイレンが憐れんだ目で姫乃を見つめる。
「ここが現代じゃないのが悔しい!!全く伝わらない!!辛い!本当面白くない!!!」
「いや、知らないよ…」
姫乃の様子に、スイレンはドン引きである。
こんな時でも姫乃節は相変わらずなのだから、呆れて言葉もでなかった。
「………」
珠里は一通り3人の様子を伺っていたが、不満をあらわにする姫乃から目が離せなかった。
金色に光り輝くオーラと共に、竜也に出会った頃よりも遥かに強い衝撃を受ける。
体が告げていた。
竜也ではない。
自分の神子はこの男だと。
「……珠里様、私達は蚊帳の外のようですね?どうします?」
「………」
黎椎が珠里に問いかけるも返答がない事に不思議に思い、珠里へと視線を向ける。
その瞬間、黎椎の目が大きく見開いたのだった。
「………珠里、様?」
信じられないような顔をし、姫乃を見つめていた。
黎椎の声など聞こえていないらしく、視線はずっとひとりの少年へと向けられているではないか。
初めて見る主の顔に目が離せなかったのである。
「…珠里様」
黎椎の声にはっと我に返り、珠里は口角を上げて愉快そうに笑った。
「これなら楽しくなりそうだな、黎椎」
「……は?」
何が、そう質問しようとすれば珠里は気にする様子も見せず、彼らの後を追ったのだった。
「絶対、ろくでもない事を考えてる…」
独り言を呟き、大きな溜息をつく黎椎であった。
2025.07.22
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