tori


27


ギョクレンは禍々しい邪気のする方へ走って行く。
段々と血生臭いにおいが強く濃く辺り一面を埋め尽くし、姫乃に言われるまでもなく竜也がいる場所がわかった。
同時に感じたのは得体の知れない生物と思われる何かの気配。
今まで遭遇した何よりも強いオーラに舌打ちをする。
青筋を立て、槍を振りかざし障子を真っ二つにぶった切った。
その瞬間目にしたのは、中央に浮かび上がる球体を真っ赤な糸のようなもので巻かれ、血液らしき物が滴り落ちている様子である。
まるで吸血してるかのように蠢き、辺り一面が血溜まりになっていたのだった。
見た事もない光景に一瞬何が起きたのか理解出来ずに立ち尽くす。

「っ!?」

横たわる巨体。
体に生気はなく、所々紫色に変色している。
そこから出血しており、まるで切り刻まれたかのような切り傷となっていた。
つんと鼻につく強い刺激臭。
多分、毒だろう。
それが体中に回っているのだと容易に想像する事が出来た。
男は呼吸が弱く、既に虫の息である。
鍛えられた体でも毒から逃れる事は出来なかったのだろう。
他国のものだとすぐにわかる褐色肌と真っ赤な髪色。
初めて見る男だった。
先程、出会った2人も同じような感じだったが、もしかして仲間なのだろうか。
いや、今はそんな事どうでも良い。
下腹部に刻まれた紋章が燃えるように熱く、それが何を意味しているのかわかった。
誰に聞いた訳でもないが、これはギョクレンの直感になってしまうのだが、恐らく竜也がこの球体の中にいるのだろうと言う事がわかる。
理由なんてない。
ただ漠然と思うのだ。
竜也のナイトだから、紋章が焼けつくように熱くなり、そこにいるんだと教えてくれた。

(黒野…)

ギョクレンが竜也を思い、球体へと手を伸ばす。
すると銀色の光と共に真っ白で生気のない手が飛び出て来るではないか。

(っ…!?)

槍を自らの前で回転させ、防御するが実体を保たないのかそれはすり抜けて来た。

「っ…!!?」

ギョクレンが驚愕の表情を浮かべた瞬間、2本だった手が何本にも増え、彼の体に巻き付いていく。
ほんの一瞬の出来事だった。
スイレンと姫乃が到着する前に、ギョクレンの体は赤の球体へと吸い込まれてしまう。

「ギョクレン!!」

スイレンが部屋へ到着した時には既にギョクレンの姿は跡形もなく消えていた。
代わりに残ったのは、彼がいつも愛用している槍が何もない空中から無機質な音を立て、床に落ちていくのをスイレンと姫乃が目の当たりにする瞬間だったのだ。

「……え?」

片割れが確かにこの部屋へ入って行くのを見た。
辿り着けば、知らない男がひとり血だらけで床に転がっているだけである。
それ以外特に何の変哲もない部屋。

「あれ?弟は?」

姫乃が辺りを見回すが竜也はおろか、ギョクレンの姿さえなかった。

「……わからない。…確かにギョクレンがここに入るのを見たのに…俺が来た時にはもう…」

その言葉を聞き、姫乃の顔が青くなる。

「……黒野くんの気配が消えたのは、もうこの国にいないって事…?しかも弟も…一緒に…?」

その言葉を聞き、あの日の事が頭に過る。
竜也の妊娠検査をした夜、彼は忽然と自分の目の前から消えた。
正確には夜中の内に居なくなっていたのだが。

「……姫乃、神子は時空移動とか…出来るのかい?」

スイレンが真剣な顔で姫乃を見つめた。

「…いや、どうなんだろ?自分の意思じゃなくて吸い込まれる感じ、かな?」
「吸い込まれる?…それはどんな感じで?」

姫乃は竜也と共にこの世界に来た時の事を思い出した。
つい最近の出来事なのに、酷く昔のように思うよは何故なのだろうか。

「三味線の音がして、まるで引き寄せられるかのように井戸へ行ったら、神社の境内にいたんだよね」

聞き慣れない三味線と言う言葉に、スイレンの眉間にしわが寄った。
それを姫乃が気づき、慌てて説明する。

「あ、ここには無いのか!三味線ってのは、楽器のようなもの!音が出る楽器ね!ワシの世界では古くから使われてる伝統的なものなんだ」
「……そうなんだね。さっき、聞こえた?」
「いや、全く」
「そうか…」

ここで考察は終了してしまった。
手がかりはないが、確かにギョクレンがこの部屋にいた証拠になる槍を拾いあげる。
するとバタバタと音を立て、先程出くわした珠里達が来たのだった。

「……面倒な事になりそうだね。神子様とスイレンを探したいのに、次から次へと…」

厄介ばかりだ、そう呟くとスイレンは詠唱し始めた。

「暴れる感じ?やっちゃる、やっちゃるー」

姫乃は満面の笑みを浮かべ、ファイティングポーズを決めたのだった。

「ひとつ質問なんだけどさ、姫乃…戦えるの?」
「ん?そんなの無理に決まってんじゃーん!」
「………だよね」


竜也とギョクレンはどこへ行ってしまったのだろうか。
それを知る者は本人達のみ。


第二章 終


神子とナイトは特別な繋がりがあって、理屈ではない直感的な何かがある、と言う感じでいってます(笑)ふわっと設定の為、色々矛盾とかあるとは思いますが、どうにか行き当たりばったりで頑張って行こうと思ってます。ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。第三章までしばらくお待ちを。


2025.07.24

- 57 -

*前次#


ページ: