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士騎が振り向いた瞬間、赤い球体は消え、空中に竜也が浮かんでいた。
「っ!!?」
見慣れない着物を着て、化粧を施し、肌を露出させたあられもない姿。
制服はどうした、とか。
今までどこに行ってたんだ、とか。
何で浮いてるんだ、なんて言葉が頭に過るも士騎はそれらがどうでもよくなるくらいにゆっくりと竜也に近づいて行く。
「……黒野」
竜也の名前を呼んでも反応はない。
体の周りが黒く紫色に発光し、まるで天女かと思わせるかのように美しく、宙に浮いているではないか。
着物は花魁のようでいて、少し違っていた。
だが、健康的な肌のきめの細やかさと、合わせ目から見えそうで見えない胸の飾り。
太ももは片脚だけ見えており、そのすらりとした細く長い脚がとても綺麗だった。
まるで士騎が近くまで来るのを待っているかのようにふわりと浮き、竜也に触れた瞬間、ゆっくりと体重が乗せられる。
ずしりと重みを感じ、落とさないように大切に抱きしめたのだった。
「……心臓させやがって…!」
士騎の目は潤み、竜也の体温を確かめるように優しく力を込めて抱きむ。
ふわりと香る甘い匂いが士騎の思考を少しだけ停止させる。
まるで男娼のような姿に、はっとさせられたのだった。
「……いや、おかしいだろ…。何だよ…この格好…」
まじまじと竜也の姿を近くで見れば見る程に、頭にもやがかかるかのように意識が朦朧とする。
考える事を放棄させるかのような色香に、士騎は思い切り頭を振った。
友人に対して、一瞬でも邪な想像をしてしまった事を悔い改める。
「…それにしても熱いな…」
子供のような温かな体に、少しだけ生命を感じほっと息をつく。
やっと会えた。
ずっと探していた本人が目の前におり、先程までの不安が全て消え失せる。
「……はぁ」
小さな溜息をつき、竜也を離さないとばかりに引き寄せた。
色々思う事はたくさんある。
放課後から夕方までの数時間しか離れていなかったのに、まるで長い時間居なかったように感じる感覚と共に、先程の宙に浮いた現象もだが、何故、竜也が自室に突如として現れたのか。
竜也の顔を見ると学校で一緒だった自分の知ってる自由で子供っぽい彼ではなく、まるで人生を重ねた人のような大人っぽい顔つきになっていたのだから、驚きしかなかった。
この数時間で竜也に何があったのだろうか。
考えても答えなど出やしないのに、漠然とした不安が士騎の胸に救うのだった。
「……ん」
竜也の瞼がぴくりと動く。
「…黒野…」
士騎はその頬に手を添え、優しく撫でる。
「……、……ぁれ…?」
ゆっくりと目を見開き、不思議そうに士騎を見上げた。
「…おい、大丈夫か?」
士騎の顔を食い入るように見つめ、声を聞き、ふにゃりと微笑んだ。
「く、れ…さわ…だぁ…。……良かった、ぁ…」
ほにゃんとした顔の竜也に、士騎が拍子抜けする。
何が良かったのか、いまいちよくわからない。
竜也は完全に寝ぼけているのだろう。
呂律も回ってなければ、目もちゃんと開いていなかった。
「あ…!おいっ…!」
士騎の心配をよそに、とても危機感のない安心した顔をしているではないか。
確かに自分は竜也にとって危険な存在ではない。
だとしてもよくこの状況で何の疑問ももたずにいられるのか、思考回路が追いつかなかった。
「……む、りぃ…、眠い…」
そう言って再び寝息を立てて爆睡してしまった。
こんな状況にも関わらず、爆睡出来る神経がわからない。
「……てめぇは相変わらずだな」
チッと舌打ちをし、耳を真っ赤にして士騎は破顔するのだった。
(何でか知らねぇけど、マジ憎めねぇ奴だな…)
2025.08.20
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