tori


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ギョクレンが辺りを見回すと、今更ながら先程までいた楼の部屋でない事に気づく。
赤鬼の気配ばかりに気をとられ、それ所ではなかったと言うべきだろう。
魁人達がいなくなったと同時に雨がやむ。
あれだけ真っ黒だった空から、太陽の光が見え始めたのだ。

(通り雨だったのか。それにしてもここは何処だ?…森の中なのに、人工的な建物がやけに多い…。雷国ではないのか、どう言う事だ…?)

見た事のない建物ばかりに目を奪われる。
自分達のいた自然豊かな水国に何となく似てるが、どれもあくまで似ているだけ。
それもそうだろう。
ここは日本と言う、別世界だ。
ギョクレン達が住んでいた場所は同じようなアジアンテイストだが、中華風。
似ているようで異なる世界であった。
まさか自分が竜也のいる世界に来たなど思いもしないだろう。
鳥やチャイムの音等、自然と人工的なものが混じっているにも関わらず、どこかほっとするこの感じ。
まるで竜也と初めて出会った時を彷彿させるのは何故なのか。
ただ漠然と思うのは、視界いっぱいに平和な土地が広がっており、ギョクレンの中で警戒心が徐々に解けていくと言う事だった。

(初めて見る種類だが、やけに小さいな。餌を探しに来たのか。それにしても鳥達が一切怯えてない)

雀がギョクレンと一定の距離を保っているが、数羽程度が土を突き、木のみや虫を食べていた。
初めて見る変わった姿に、ギョクレンがゆっくりと手を伸ばす。
まるでこの指に止まれと言わんばかりに人さし指を少しだけ動かした。
するとチュンチュンと鳴いてた一匹が気づき、羽根を広げてギョクレンの指に止まったのだ。
首を何度も動かし、丸くてつぶらな瞳で見つめてくる。

(お腹が空いてるのか)

雀の声が聞こえ、ギョクレンは懐にしまっていた非常食の豆を一粒あげる。
すると嬉しそうに口に加え、翔び立ったのだった。
空は明るくなり、虹が出ている。


未だに痛む喉。
無意識に喉元に触れる。
やはり声を出す事はまだ出来そうになく、必要最低限の情報すら得られなかったが、あの2人が人間でない事に気付いていた。
オーラや殺気が今まで出会った誰よりも強く、異質なものだった。
人間ならば自分が負ける筈ないと誰よりも自信がある。
鍛錬だけに全てを捧げてきたからこそ、自らの実力を冷静に分析出来た。
これは過大評価ではない。
事実なのだ。
スイレンの言う通り、神子は本当に存在していた。
そして鬼も。

「……」

気になるのは貼り付けたような笑みを浮かべる優男の存在だ。
オーラも殺気もなければ、何の力も感じなかった。
それなのにこの嫌に後味の悪い気持ち悪さが残る。
一見してみれば、ただの人間。
なのに、胃の奥から込み上げるような吐気が止まらなかった。
赤鬼も強かったのは確かだ。
だが、それでもギョクレンの方が格上である。
そんな自分が魁人の存在が気になり、戦闘どころじゃなかったなど、言える訳がなかった。

(……あぁ、そうか。この気持ち悪さの正体、わかったぜ…。あんなクソ餓鬼に俺がにビビってたのか…)

納得してしまえば、体が拒否していた理由も頷けた。
未知な存在が酷く恐ろしいのだ。
先程会った珠里ですら、相当な腕の持ち主だと一瞬でわかった。
相手を見ただけである程度の実力がわかるのだ。
それがギョクレンが全てを投げ捨て、鍛錬だけした結果だった。
今まで出会った誰よりも不気味な存在である魁人が、理解出来ないのだ。
己の直感が告げている。
あの男を竜也に近づかせてはいけない。
何故かわからないが、漠然とそう思うのだった。

(黒野…)

竜也の安否が何より心配でならない。
こんな事をしてる場合じゃなければ、鬼達に構ってる暇もなかった。

(どこにいる)

ぎりっと歯を噛み締め、ここが何処なのか、それすらもわからない中で、竜也の顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。
罪悪感から押し寄せる後悔。
守ると誓った筈なのに、現実はどんどん物理的距離が開くばかり。

「……」

じくりと腹の下が熱くなった。
今まで感じた事がない感覚である。
ギョクレンはその部位を確認する為にパンツのウエストを引っ張った。
するとそこに浮かぶのは黒い魔法陣で、紫色の光を放っていたのである。

(これは…黒野の…)

そう、以前に口づけをしようとした際に竜也から拒絶の意味で魔法陣が作られた。
その時の紋章と全く同じなのだ。
そして、スイレンに見せてもらったアンダーヘアぎりぎりの所に刻まれたナイトの証。
それが自分にも刻まれており、ギョクレンは小さく笑ったのだった。

(これで本当の意味でお前を守れる…)

一瞬だけの微笑み。
やはり双子なのだろう。
スイレンの微笑みと全く同じでとても美しかったのだった。


2025.08.22

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