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※ノーマル表現あります。苦手な方はスルーして下さい。
✐鱗…100年前の神子。
✐コウ・エンキ…鱗を何かと守って来た人。
「っ…何故…、何故なのですか…!」
鱗は涙を流し、エンキの腕を掴む。
その瞳の色はとても美しい漆黒。
黒曜石を思わせる輝きは見た者を釘付けにさせる。
「っ…嘘ですよね?…エンキさんが鬼だなんて…。だって…ずっと、私を守って下さったじゃないですか…」
鱗はボロボロと涙を流し、エンキが否定してくれるのを願う。
今すぐにでもその涙を拭ってやりたい。
だが、自分にはもうその資格はなかった。
何の言葉も発さないエンキに、鱗は乾いた笑いを浮かべる。
「ふふ…、それでは…まるで、私の事…騙していたとおっしゃってると同じではないですか…」
その言葉にエンキはギリっと歯を噛み締め、視線を逸した。
それが全ての答えだと言うような仕草に、鱗の目が大きく見開かれる。
「………ぇ」
瞳が大きく揺れ、目の前が霞んでいく。
(何故…?どうして目を合わせて下さらないの…?)
「…悪ぃ…」
エンキは目をぎゅっと閉じ、唇を噛み締める。
それだけで全てを物語っていた。
「何故…謝罪など…?貴方は本当に何者なのてすか…?」
ふるふると鱗の体が震える。
目をあけなくても彼女がどんな表情をしているのかわかった。
「……俺は鬼だ。今まで黙っていて、悪かった…」
洞窟の中にいるのに、雨の音がやけに響く。
鱗の脳内に届くまで時間がかかった。
「俺はあんたの監視役だ…」
ずっと愛しいと思っていた相手がまさかの敵だったなんて思いもしなかっただろう。
エンキに救われ、ここで生きてく為の知識や技術を全て教わり、共に過ごして来た。
いつしか元の世界に帰りたいと思わなくなり、彼の傍にいたいと願う程に。
何と言う残酷な言葉だろうか。
エンキは全て、監視役として鱗の傍にいたに過ぎなかったのだ。
「っ…!!ずっと嘲笑っていたのですか!?私が貴方を愛し、世界を守ろうとしてるのを利用しておられたのですね…っ!!」
鱗の瞳に怒りが見えた。
初めて向けられる感情に、まるでエンキが傷ついたような表情をする。
「……っ、…何故、貴方が…」
(そんな悲しい顔をするのですか…。私を愛して等いない癖に…)
裏切られた鱗よりもエンキの方が悲しい表情をし、それを見て何故か自分が悪い事たかのような気持ちになってしまう。
一度愛した人。
いや、こうして利用されたとわかっても尚、胸を締め付けるような恋慕は消えない。
「鱗…俺は…」
エンキはごくりと唾を飲み込み、真剣な瞳を向けた。
互いの視線が交われば、裏切られ事等どうでもよくなる。
ただ愛しいのだ。
エンキが例え鬼であろうと、この手を離せない。
どんな事があっても世界もエンキも失う事等、出来なかったのだ。
2025.08.23
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