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まだ数分しか経ってないのだが。
先程とは異なって、酷く状況が変わった。
「……これはどう言う事だ?」
ピリっと凍てつく程の空気と共に、床に転がるジゼルを珠里が発見する。
先程までのふざけた顔や余裕そうな笑みを浮かべてい時とは違い、物凄く恐ろしい形相でスイレンを睨みつけていた。
(この男の仲間だったのか。予想はしてたけど、物凄く怒ってるよね…。反対の立場なら、問答無用で殺しちゃうかもしれないし。まぁ、それは冗談だとして…。俺だって何が起こったのか知らないよ、来た時にはもうこれだったんだから…。おまけにギョクレンはどこに行ったかすらわからないし…)
ちらりと姫乃に目を向ければ、珠里の筋肉に目が釘付けになっているではないか。
今はそれ所ではないのに、何をしてるんだこいつと言う目で見てしまう。
姫乃と目が合い、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
全くもって嫌な予感しかしない。
スイレンが構えてると、ゆっくりと姫乃の唇が動いた。
大丈夫、ワシの嫁は覚だけだよ。
何て声に出さずに言うものだから、こんな状況にも関わらず、馬鹿なんじゃないのこいつ、と頭に血が登ってしまった。
「そんなの知らないよ!」
つい大声を出してしまったスイレンに、珠里は怪訝な顔をする。
どうやら先程の質問に対しての、上手い答えになってしまった流れだ。
全くもって上手くもない言葉なのだが。
こんな状況で、雑な返答等したくなかった。
今後、悪手になるかもしれない手をスイレンが選ぶ筈もないのだが、今回は姫乃に乗せられてしまった自分を酷く恥じる。
姫乃を目の前にすると、己の精神年齢が低くなる事実をそろそろ認めるしかないようだ。
こうして他国とのファーストコンタクト、いや、セカンドコンタクトでやらかすくらいの失態に。
「………」
ちゃんと説明しろと珠里の目が語っている。
あれだけでは逃がしてくれないらしい。
それも当然か。
「着いた頃にはもうこうなってたんだよね。僕達は何もしてないし、すぐに君達が来たからね…」
未だに不信感丸出しの目を向ける珠里に対して、スイレンは冷静を装っているが内心バクバクである。
自分のちんけなプライドよりも国同士が戦争になる事の方が恐ろしい。
自分の代で無駄な死を出したくないし、隊士達には1日でも多く寿命を全うして幸せに生きて欲しいのが願いだ。
無駄な争いなど不毛である。
「疑う気持ちもわかるけど、信じて欲しい」
スイレンが眉を下げ、必死に訴える。
少しだけ珠里の表情が緩んだと思った瞬間、物事の綻びを直す事は容易ではないと知る。
「ジゼル将軍…!!?」
黎椎の取り乱すような声と共に、スイレンが予期しいた事態だ。
折角の弁明も彼の声ひとつで水の泡だろう。
その証拠に、珠里の表情が再び険しいものへと戻ってしまっていた。
(あと、少しで絆される所だったのに…。情に脆そうなタイプだから、いけるかなと思ったんだけどねぇ。…むしろ、それが仇となったのか。俺の言葉よりも仲間の訴えを優先するよね…)
ちらりと2人を交互に見遣る。
多分、目の前にいる彼が身分の高い者である事は間違いない。
体から滲み出るオーラが堂々としているのだ。
一見、黎椎の方が佇まいもだが、所作など完成され、上司と思われがちだが、スイレンにはわかった。
珠里こそがこの国のトップであると言う事を。
若干、自分の弟を連想させるのだ。
魔力を持たずして生まれたギョクレンは自らの運命を切り開く為に、ひたすら鍛錬だけに時間を費やした。
自分だったら、間違いなく諦めていただろう。
魔法が使えて当たり前の国で、魔力を一切もたずに生まれた異端児と言われる程に忌み嫌われた存在。
双子が生まれると必ずと言って良い程に、一人は魔力に恵まれ、もう一人は生きた屍として生涯を終える。
双子は禁忌な存在だから、本来は一人しか生まれてはならない。
前世に悪行をした人間にくだされる罰なのだとか。
本当の事は知らないが、スイレンの見解は違った。
生まれてくる時に兄が弟の分の魔力を全て奪ってしまうからだと考えている。
その証拠に、スイレンの魔力は水属性であり、この国で水魔法を使える人間は極稀な存在だ。
とても貴重で、それだけでも凄いのに自分は魔力が最高ランクのSである。
けどギョクレンは違う。
何の才も持たずにして生まれ、己の努力と根性だけで鋼の肉体を手に入れた。
そんな強靱な精神力を持つ弟と、珠里のオーラが似ているのだ。
2025.08.02
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