tori


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※流血シーン、残酷な発言あるので、苦手な方はスルーして下さい。


青蛇鬼じょうじゃき…大蛇の形をした青色の獣鬼じゅうき。魁人にだけ従う契約獣鬼。魁人の影に常に潜み、その身を守っている。水属性。


ギョクレンは体に力を入れ、刺さった針を筋肉の力だけで全て薙ぎ払った。
地面や周りの木々に突き刺さり、ただの髪の毛だったそれがあまりにも硬い事を物語っている。
抜けた箇所から出血し、肌に伝い落ちていく。
ひとつひとつの傷口は小さくても何百と刺さればかなりの痛みが伴う筈だ。
それを感じさせないくらい、ギョクレンは無表情で赤鬼を凝視するのだった。

(思った通り、切り離した髪も変幻自在って訳かよ…)

表情の読めないギョクレンに対し、赤鬼は勝ち誇ったように不敵な笑みを浮かべる。
強がっていられるのも今のうちだ、とでも言うように。
だが待てど暮せど、ギョクレンの体調に異変が現れる事がなかった。

「……まさか、…そんな馬鹿な…!?」

赤鬼はなかなか反応を見せないギョクレンに驚愕の表情を浮かべる。
まるで化物を目の前にしたかの反応が茶番にしか見えない。

(毒なんか、俺に効かねぇよ。糞野郎)

そう、ギョクレンは幼少期から毒耐性をつけていた為、どんな毒でさえも効かない体質なのだ。
それどころかギョクレンの肉体こそ猛毒であり、体液や血液、肉体に至るまで全てが恐れられるものだった。
本人が意識して毒を放出できる為、普段は普通の人間と変わりない。
戦闘時に限り、気の流れを使いわけ、ターゲットだけに毒を送るのだ。

「…私の毒が効かないとは…、っぐはっ!!!」

赤鬼が地面にひざまずき、血を吐いた。
びしゃっと大量に吐血し、体を震わせる。

(っ…、まさか…頬への一撃で毒を…?私よりも強烈な猛毒など…ある、筈が…っ)

もう立つ事も出来ない程、全身にギョクレンの毒が回っていたのだった。
青白い顔が更に血の気を失せ、唇は紫色に変色していく。

「……今回は僕達の負けみたいだね。隻眼と言うハンデを持ちながら、これ程まで強いとは思わなかったよ。……不自由だろうに。…僕が想像出来ない程、血の滲む努力をしてきたのだと思う」

魁人はまるで同情するように眉を下げて、優しく微笑む。

(……は?)

ギョクレンが目を大きく見開き、こめかみに青筋を立てブチギレている。

「もし両目が見えてたら、もっと君は強かったのだろうに…本当に勿体ないよね」

ブチブチブチブチと顔中に血管が浮き出る。

(両目が見えてたら、だぁ…?)

ギョクレンにとって、この目は勲章である。
決してハンデ等ではなかった。
唯一の父親を守る為に捧げた物で、失ったものなんかじゃない。

「綺麗な顔が全部見えないのは残念だと思う。……肌は透き通る程白く、唇は薄く桃色で…瞳の色は海のように深い。どれをとっても神秘的で凄く美しいのだね…」

初めて見せる魁人の微笑み。
本当に心から笑っており、頬は微かに朱色に染まる。
こうして可憐な姿をしてると絵になるが、とてもじゃないけど性格が良いとは言えない。
むしろ相手の神経逆なでし、嫌われるだなんて思ってもないだろう。
無自覚なのだ。
素で褒め、心配していた。
ギョクレンからしたら自分を馬鹿にし、明らかに挑発してるとしか思えないが、魁人は心から嘘偽りなく本音で話している。
本当に思っているのだ。
ギョクレンの瞳がひとつしかない事を悲しいと。
両者の基本的な性格が全く違い、あまりにも噛み合わない。

「濃厚で味わい深いんだろうね…。早く口に含んで、舐めて、噛み潰してみたいな…」

その瞬間、ギョクレンの瞳孔が開いた。
そして今までなんて非じゃない程の形相をし、全身は殺気に包まれる。

「申し訳ないね。僕にはまだ…君と戦う程の力はないのだよ。もう少しだけ…待っててくれると嬉しいよ。…青蛇鬼じょうじゃき、退散しようか」

名残り惜し気にそう伝えると、魁人の影から10m程の大蛇が出現する。
何処に隠れていたのかと思う程の巨大さに、ギョクレンは一瞬だけ固まってしまう。
無理もないだろう。
誰が予想出来た事か。
人間の姿をした魁人の体から、突如として獣鬼が現れたのだから。
未だに苦しむ赤鬼と魁人の体にとぐろを巻くように絡みつく。
そして音もなく地面へと2人が吸い込まれたのだった。

「!」

あまりのも素早い動きに、ギョクレンはただ凝視するしかできなかった。
獣鬼の存在は知っていたものの、本当に存在する事に驚きを隠せない。
そしてあれ程までに巨大なものが存在する事を目の当たりにし、初めて実感するのだった。


2025.07.31

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