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※ノーマル表現あります。苦手な方はスルーして下さい。
ほんの一瞬の出来事だった。
まるでスローモーションのようにエンキの表情が驚愕へと変わる。
「神子っ…!!!?」
そう呼ばれたかと思えば、腕を引かれ、抱き締められた。
そして互いの位置が変わるように入れ替わった直後、何かを貫くような音がする。
まるで肉を裂いたような鋭く嫌な音だった。
「………エ、ンキ…さ…?」
鱗の問いかけに答えず、強く抱き締められる。
「……確かに…俺は鬼だが…あんたを本当に…愛して、る…」
そう切ない程の掠れた声と共に、エンキの体が鱗に覆いかぶさった。
「っ…!?」
「神子…、次に生まれ変わった時…何があってもお前を…守り…、永遠を…誓お、う…」
優しく、愛おしそうに微笑み、エンキの瞳がゆっくりと閉じる。
そして口角から血を流し、力が抜けるかのように全体重を預けた。
「エンキさんっ!?」
その背に腕を廻した瞬間、手に纏わりつくぬるりと生暖かい何か。
そこに恐る恐る視線を向けた瞬間、手のひらが真っ赤に染まった。
「っ…!?エンキさ…?っ…、…嫌っ…!嘘、そんな…!嫌ぁぁぁぁーーー!!!!」
はっと竜也の目が覚める。
視界がぼやけ、自分の嗚咽が止まらない。
目から涙を流し、心が痛くなるような感覚に陥った。
(夢…なのか?あれが…?まるで本当に起きた事みたいじゃんか…。神子って…もしかして100年前の…?)
涙が止まらないのはもちろん、体が熱く、呼吸は乱れ、汗が吹き出てくる。
夢にしてはリアルだった。
まるで現実ではないかと思う程に、血に濡れた手の感覚。
エンキと呼ばれた彼の温かな体温と匂い。
自分の手のひらを見れば、血など一滴もついていなかった。
なのにあの感触が手にこびりついて、離れてくれない。
恐ろしい程に震えが止まらなかった。
何に1番驚いたかと言えば、エンキと呼ばれた青年の容姿と匂いだ。
高校のクラスメイト兼友人の士騎にそっくりだった。
まるで生き写しのような姿に、竜也の瞳が動揺から揺れ動く。
そして神子と呼ばれた少女の顔は、性別こそ違えど紛れもなく自分だったのだ。
(俺……?あまりにもそっくり過ぎるだろ…。まさか100年前の神子って、俺の先祖なのか…?)
鬼と神子の恋愛。
そんな事が可能なのか。
互いをとても大切にしているのがわかった。
「止まらない。何…で…、こんなに悲しいんだよ…っ」
夢から覚めたと言うのに、竜也の胸が苦しくて堪らないのだ。
涙が溢れ、まるで水道の蛇口を捻ったかのように止まらない。
(これは2人の感情…?それとも神子の…?こんな気持ち初めてだ…)
エンキと呼ばれた青年が愛しくて、そしてとてつもなく悲しく切なかった。
竜也はこの歳になって、初恋はおろか、良いなと思った人がない。
好感を持てたのは姫乃だけで、中身を知ってしまえばそれも恋等には遠いものだった。
だからだろう。
こんな激しく心が揺れるような感情は初めてなのだ。
今すぐにでも会って抱き締めて欲しい。
彼の匂いや声を感じて、その体に触れたい。
あの優しい顔を見て、口付けたくて仕方なかった。
竜也の中に鱗の感情が流れ込み、甘く切なく胸が高鳴る。
自分でも制御出来ない程の、とてつもない感情に苛まれるのだった。
ロミジュリ的な男女の愛。鱗が先祖なら、神社の息子として結界張ったり、守れたりする訳だよなぁって言う全然ニセ神子感のない竜也。いつも脇役、傍観主人公にしたいのに、すぐ主役感たっぷりになってしまうこの流れ。そろそろ本当に当て馬とか身代り書きたいけど、すぐ目立たせたくなるから、自分には向いてないし無理だろうなって言う諦めに入って来てる今日この頃。
2025.08.25
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