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「えー、忘れちゃったのー?ワシだよ、ワシ。君の尊敬する白川先輩だぞー」
その言葉に天音が固まった。
そして姫乃へとゆっくり視線を向け、馬鹿にしたように蔑んだ目をする。
「…………は?」
とても声は低く、優等生とは思えない程の態度だ。
「君は大切な先輩に対して何て薄情なんだ!!まだ離れてから少ししか経ってないのに、もう忘れてしまったのか!?黄田くん、君は鶏なのか…?3歩歩いたら忘れる、鶏とでも言うのかー!?」
くわっと姫乃が目を見開き、天音に詰め寄る。
汚いものを見るかのような視線に気づき、姫乃がぐっと息を飲んだ。
「またそんな人を見下したような顔をして!!何度言ったらわかるんだ!!それを向ける相手はワシじゃなくて会長にしろと!!二重人格ツンデレ優等生×ミステリアス会長のケンカップルとか最高じゃねーの!!いや、むしろミステリアス会長×二重人格ツンデレ優等生のツンツンからのデレとか萌えーー!!!え、何?下剋上とか狙ってるけど勝てない系??可愛い!!!何それ、可愛くて死ぬんだけどー!!!はっ…!!?これってリバ!?リバなのかー!?」
スイレンは思う。
こいつ、何を言っているんだ、と。
「……聞き慣れた言葉ですね。このやかましい感じといい、意味不明な絡み方といい…。……いや、でも副会長は女性で。……まぁ、あくまで生物学上ですが…確かに女性なんですけど…」
あり得ないと首を横に振ってみせるが、何故かそれを肯定出来ない。
あの独特の話し方、そして間延びした頭の弱そうな言い方。
何より、いつも会長とくっつけようとする物言い。
やたらと不気味な専門用語。
それらが天音に姫乃を連想させてしまう。
そして先程からやけに顔が整ってる青年から発せられる名前が、目の前にいる男を姫乃と呼んでいるではないか。
「生徒会ライフは楽しかったか?ついに会長に処女捧げられたのかー?」
その言葉を聞いて、天音は確信した。
こいつは間違いなく自分の知っている白川姫乃だと。
「黙ってもらっていいですか?」
急に言葉遣いが乱暴になったかと思えば、スイレンの張った魔法をすり抜け、姫乃の頭を片手で掴んだ。
「いい加減にしてくれませんかね、俺は会長を尊敬こそしてますが、そう言うくだらない感情なんかで汚さないで下さい。毎回毎回ふざけた事を…!しかも鶏ってなんですか?あ?馬鹿だとは思ってましたが、本当に馬鹿なんですね」
「ちょ、…痛っ……!!?痛いのだよ、黄田くん!!!これ、尋常じゃないくらいめり込んでるー!!」
メリメリメリと天音の指が姫乃の頭部にめり込む。
「このムカつく感じ、やっぱ副会長で間違いありませんね。いつの間に性別変わったんですか?それとも実は最初から男である事を隠して女装してたとか。…はぁ、何か…有り得そうで怖いんですけど」
「スイレン助けて!!ワシ殺される!!!由々しき事態だよ!!!見てる場合ではないぞ!!完全たる命の危機に直面してるってばー!!」
「はっ…、殺しませんよ。…あなた、死んでからも厄介そうですし。無料で陰陽師なんてやる訳ないじゃないですか、この俺が」
にこりと爽やかな笑みを浮かべる天音。
姫乃は思う。
あ、これ、めちゃくちゃ怒ってるし、からかって遊んでたの相当根に持ってるなと。
天音とスイレンが似た人種に感じるのは自分だけなのだろうか。
ちょっと遊んだだけでこの仕打ち、解せぬ。
頭蓋骨がめりめりと嫌な音を立てて更に軋んでいく。
「嫌だーーーー!!!こいつ、目が笑ってなーい!!!スイレン、マジ頼む!!へるぷみー!!!」
ジタバタと脚を動かして、スイレンに命乞いする。
その姿があまりにも滑稽で、拍子抜けしてしまう。
だが今はそれ所ではない。
天音は苦労する事もなく、姫乃の前まで来た。
スイレンが結界を張ったにも関わらず、だ。
簡単に魔法防御すらもすり抜けてしまう魔力の高さに、驚きが隠せないのだったのだった。
「あなたにお願いがあります。覚くんに会わせて欲しいんですが」
急な話題チェンジに、頭を掴まれてジタバタする姫乃も言われた事の意味がわからず固まった。
天音の視線はスイレンに向けられており、とても真剣な瞳をしている。
「俺はこの時をずっと待ってました。やっと…やっとだ。岸部覚、彼に会う為にここへ呼ばれたんだと思います」
天音は普段は優しいし、物腰の柔らかく、気配りのある性格だけど、姫乃に対してだけは二重人格かってくらい馬鹿にしたり、蔑んだりする捻くれた性格してます。ツンデレって言うのかわからないけど、とにかく姫乃には素を出すって意味では案外特別な存在なのかもしれない(笑)
2025.10.17
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