保護
ドアへと視線を向ければ、ロックキーを解除する音と共に誰かが入って来た。
環はその瞬間、海向が自分の痴態を見て驚き、気持ち悪そうにする姿が脳裏に浮かぶ。
軽蔑されて、友人ではいられなくなるのだろうか。
折角出来たのに。
そんな考えが過る。
「大丈夫か!?」
慌てたような男の声。
それが聞いた事もない成人男性らしきもので、海向でない事に気づく。
必死に閉じていた目をゆっくり開ければ、上下カーキ色のつなぎを着た青年が立っていた。
「……え?」
環はぽかんと口を開けて、青年を凝視する。
「っ…遅かったか!」
青年の顔を見れば、酷く後悔したように眉間にしわを寄せて、環の前に走って来る。
目に動揺の色が見られ、環の現状を見て微かに顔を赤らめた。
だがそれも一瞬の事で、すぐさま真剣な表情へと変わる。
「一番見られたくない姿だよな…。ごめんな。今から少し触るけど、決して変な意味じゃないから安心してくれ…」
環を安心させるよう、出来るだけ優しい声かけをした。
それにより恐怖心が微かに収まったように見え、青年が安堵する。
環から警戒心が解けた事がわかり、更に怖がらせない為にゆっくりしゃがみ込んだ。
「手を解くだけだから…少し痛かったら、ごめん…」
まるで自分の事のように悲しい顔を見せる青年に、環の心臓がどくりと音を立てる。
彼の侵入のお陰で昂ぶっていた自身が萎えたのは良いが、初めて感じる胸の動悸に環は顔を真っ赤に染めた。
出来るだけ環を見ないよう、素早く手首を縛っていたネクタイを解いていく。
自由になった手が床にパンと音を立てて落ち、その痛みに顔を歪めれば青年から謝罪の言葉が聞こえた。
「痛かったよな…。こんな姿にされて…、俺が気づかなかったばかりにっ…」
悔しそうに唇を噛み締め、環を優しく抱き起こす。
頭に縛ってあった白いタオルを解き、申し訳程度に精液でべとべとになった股間を隠した。
「……甲斐にされたんだよな?怖かったよな…。ごめんな…」
この現状を引き起こした人物をあて、環の体がびくりと震えた。
それだけで青年は確信する。
予想通り、涼介で間違いないと。
「……俺から注意しとくから、二度とこんな目に合わせない。俺が守る…」
まるで自分の事のように泣きそうな瞳を向ける青年。
そして何より、守ると言ってくれた言葉に重みを感じた。
初対面なのに、何故こんなにも親切にしてくれるのだろうか。
優しさが伝わってきて、この人は信用して大丈夫だと感じたのだ。
「……ありがとうございます。…あの、この事は…」
誰にも言わないで欲しい、そう伝えようとすれば、優しく頭を撫でられた。
「あぁ…、大丈夫だ。俺の口からは何も言わない。環が言って欲しいと言ったら別だけど…。それでも…甲斐だけは許せないから、俺があいつをしばいても良いか?」
急に名前で呼ばれ、どきりと胸が高鳴った。
伝えてもないのに、何故。
そして自分の為に涼介をしばいてくれるとまで言ってくれて、環の心がほわりと暖かくなる。
「大丈夫。環の嫌がるようにはしないし、涼介以外の人間に知られるような事にはならないから」
遠慮がちな微笑みと優しい声。
頭に触れる手の暖かさ。
そして再び呼ばれる名前。
「……何で、名前…」
何故、この人は自分の名前を知っているのだろうか。
そう環が口にすれば、明らかにわかる程に青年は動揺していた。
「………あっ!!そうそう!匿名希望でタレコミがあったんだ!ここに佐野環がいるって」
まるで今思いつきましたと言わんばかりの物言いなのに、何故か環は納得してしまった。
このあり得ない状況下で、人はおかしくなるものだ。
普段なら気付ける事も気づけなくなるのだから、仕方ない。
「あ、そうだったな!自己紹介まだだよな?俺はこの学園の用務を担当してる中川色生。何か壊れたり、備品とか無かったり、困った事があれば声かけてくれ」
にっと歯を出して笑う姿が少年みたいで、思わず和んでしまう。
人当たり良さそうな真面目な性格に感じる。
「中川さん…なら信用出来るので、全部お任せします。あと…お願いがあるんですけど…俺を少しの間、誰にも見つからない場所で匿ってくれませんか?」
(こんな姿、誰かに見られたら最悪だし…、何より…もっとこの人と一緒にいたい)
2025.03.11
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