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「へぇ…、あの美少年とお友達なんだね…」
涼介は海向を思い出す。
可愛い顔に不釣り合いな程に男らしい演奏はインパクト絶大で、お人形さんみたいなイメージから一変、内側から溢れ出す闘志は凄まじいものだった。
お行儀良く、優等生なのだろうと外見から決めつけていた部分が多少なりともあり、彼のギターを聴いた瞬間に見えない硝子が飛びったような感覚に陥る。
涼介なりに音楽を愛していた。
だからプロデューサーもやり、s-netの社長も兼任したのだ。
「ただの聞き分けの良い大人の道具ではないのかもね」
ぼそっと自分に語りかけるように呟く。
その声は誰にも聞こえなかっただろう。
あの時の光景が蘇る。
環を舞台上まで誘導した姿はかなり印象的だった。
誰もが見惚れる程の美貌を纏い、環をエスコートする様は絵になっており、涼介は思わず何度めかの取れ高が取れたと内心ガッツポーズ決めたのだ。
それだけではなく、参加者の中で気になる子だけは覚えていた。
海向は一番に目を惹いた子だ。
彼は金になる。
顔だけでトップクラスに伸し上がるだろう。
それ程に見目麗しい外見だったのだ。
だが涼介の好みではなかった。
お人形さんは嫌と言う程に自分の周りにたくさんいる。
涼介本人もそのひとりだ。
この容姿を利用し、少し優しい口調で話せばどんな相手でも落とせる。
恋愛関係云々の話でもなく、男女関係なく、人間性の問題も含めて。
世間とは自分に都合良く動く者を好む。
この業界だって同じだ。
偉い人間に対し、物腰の柔らかく、それなりに相打ちし、従順な振りをすれば全て涼介の思い通りに事は進む。
なんて面白味ない世界なのだろうか。
だからだろう。
海向は面白くない。
もっとこう純粋でいて、見た目とギャップが異なるくらいの自分の世界観が変わる程のインパクトが欲しかった。
海向は誰が見ても美しい。
涼介の仕事柄と言うか、むしろ趣味になりつつある美少年探し。
自分好みの者から、外見が良く売れそうな者、私利私欲と金目になりそうな人材だけは毎回チェックしていた。
そこでひと際目立ったのが環である。
チェック時には気づかなかったどこにでもいるような平凡極まりない容姿。
見た目だけで言えば好みでもないし、胸をときめかす程の情熱も感じず、全く話にならないだろう。
だが舞台で歌った瞬間、あの身なりに対して想像絶する飛び抜けた才能。
光る前の原石なんてものじゃない。
あれは誰の目にも届かなかったダイヤモンド。
こんな子は今まで見た事がない。
ioriに対してだって感じた事のない衝動が体を突き抜けた。
美しい。
あれ程に清らかでいて、何にも染まらず、内に秘められた熱い情熱は見た事なかった。
これはもっと化ける。
ioriなんて目じゃない程に光り輝くだろう。
まさに涼介がずっと追い求め続けていた、歌う為に生まれて来たような少年だった。
何が何でも自分のものにしたい。
トップスターになる素質と共に浮かぶのは、小さな籠の中の鳥。
どちらも想像するだけで興奮してしまう。
ioriのように羽ばたかせるか、はたまた自分だけで愛玩出来るよう羽根をもぎ取ってしまうのか。
そのどちらも捨てがたい。
だけどその前に劇的なストーリーを作ってあげよう。
もっと美味しく育つまで見守ってあげて、熟れて食べ時になった頃にぱくりと頂いてしまうのも良い。
相当面白い事になりそうだと、涼介は今後訪れるであろう未来を想像し、口角を上げた。
環が未だに嬌声をあげ着信に気づかない中、スマホの画面をスライドして通話状態にする。
そのままスピーカーモードに切り替え、聞き耳を立てれば、ショウタイムの始まりだ。
涼介は環の耳元で小さく呟いた。
「お友達が聞いているよ?」
ぴくりと止まる環。
一瞬、何を言われたのか理解出来なかったのだろう。
涼介の言葉がぐるぐると頭の中で木魂した。
2025.02.24
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