同族
気づいたらソファーで寝ていた。
そう言えば海向に連絡してない事に気づき、慌ててスマホを開く。
するとズラッと着信が並んでいた。
かれこれ3時間近くは経過しており、環の顔は真っ青になっていく。
少し遡る事、数時間前。
社長室の前に海向と昂輝が来ていた。
部屋に入ろうとドアを開けようとしたものの、2人のスマホでは到底開く事が出来ない。
助けに行く気満々で来た筈なのに、まさかの足止め。
それはその筈である。
社長室なんてもの、誰もが入れる訳がないのだから。
重要機密や莫大なデータ、その他諸々が管理されているが故、百瀬が承認した者以外立ち入り禁止である。
「環っ!」
防音だろう分厚い扉越しに海向が名前を呼ぶ。
だが何の反応もない。
「チッ…!入れねぇじゃねぇか」
悪態をつき、イライラを隠そうともしない昂輝。
海向は何度も環に電話をかけるが、全く繋がらない。
まさか、もう男の手により最後まで奪われてしまったのではないだろうか。
一気に不安が過る。
「ざけんなや!!おいっ!!変態野郎!!ここ、開けろやぁぁっ!!」
海向の怒号に傍にいた昂輝がびくりと体を震わせた。
びりりと走る威圧感と狂気じみた殺気。
お姫様のような佇まいに全く見合ってないドスの効いた怒鳴り声。
中性的な声が成りを潜め、巻き舌よろしくのヤンキー口調に昂輝は驚きを隠せなかった。
自分と同じ匂い。
地元で総長まで伸し上がったからわかる。
海向は間違いなく、こっち側の人間だ。
「……お前…」
昂輝が目を見開き、凝視する姿に今度は海向が舌打ちする番だった。
「何や?文句あるんか?」
ぎろりと昂輝を睨み付け、見んなとばかりに顎で合図する。
脳裏にちらりと浮かび上がる過去の映像。
一年前程になるが、昂輝が昔、一度だけ対面した事があった。
女みたいな身なりなのにとてつもなく強くて、初めて敗北した相手。
屈辱的な過去。
自分よりも小さくて、そこら辺にいる女よりも可愛かったKEPLER総長の海王
「………海王…なのか?」
その言葉に海向の顔色が一気に変わる。
目をこれでもかと大きく見開き、信じられないものを見るかのように。
「KEPLER総長…海王なんだな」
昂輝の表情を見れば驚愕から確信へと変わっているではないか。
族名も通り名も、そして総長である事も言い当てられ、逃げ切る事が無駄であると悟る。
海向は面倒臭そうに大きな溜息をついた。
「……そやけど、それ今関係あるんか?」
「いや、ねぇわ」
「………」
「………」
(何やねん、この間!!!)
海向が青筋立て、思い切り社長室のドアを蹴った。
「お前、何なん?俺は今、環探してんねん。邪魔する言うなら、今すぐここでぶち殺したるわ」
海向の瞳孔が開き、昂輝の胸ぐらを掴む。
「はっ…、あのすかした顔してた女王様がひとりの人間にここまで固執するなんて、あいつすげぇ奴なんだな」
海向の手首を掴み、胸ぐらを圧迫している力を逃す。
ぎりりっと互いの力により肉が潰されるような音が響く。
ぶるぶる震える2人の腕の力が同時に抜けた瞬間がゴングの鳴る合図だった。
海向はその場でジャンプし、掴まれた手を軸にして昂輝にぶら下がる。
その体勢のまま足で昂輝の頭目掛け、思い切り蹴り上げた。
一度敗北している昂輝は予想していたとばかりに、海向の攻撃を避ける。
びゅっと耳に聞こえる風を切る音の大きさが尋常ではなかった。
まともに喰らっていたら、失神、または脳震盪を起こしていただろう。
避けられた事など気にもせず、氷のように冷たい目をし、海向は昂輝を冷静に見つめたのだった。
「女王様言われるん、嫌いや。面白半分で環に興味持つなや。ホンマ息の根、止めたるで」
やけに低く温度のない声。
海向にとって感情が消えるくらい、言われたくない呼び名なのだろう。
床に手を付け、体勢を整えると昂輝の足首を狙い素早く足で払い除ける。
宙に浮き上がった昂輝の腹に鉄拳を喰らわし、床に倒れた所を跨った。
体重が軽く攻撃力がない変わりにスピードだけは誰にも負けない。
そして昂輝は逆に筋肉があり体重もそれなりにある為、スピードはないが攻撃力はある。
海向が上からパンチしようとする拳を掴み、そのまま体を入れ替えて床に押し倒した。
羽交い締めにされた海向が不機嫌な顔で舌打ちし、抜け出そうと試みるも力で敵わない。
両者睨み合い、ぴたりと止まった。
「引き分けだ」
「引き分けや」
互いに声に出し、戦いのゴングは幕を閉じた。
「思い出したわ。海老名、お前…レッドスコーピオンのスバルやろ」
海向は以前戦った事のあるレッドスコーピオンの総長を思い出す。
この自分の蹴りやパンチを喰らっても平然としているのは後にも先にもあの男だけだった。
強靭な肉体の持ち主。
殴っても蹴っても起き上がってくるしつこさはチーム名である蠍そのものだ。
厄介な相手だと思った。
あの時は海向が勝利したが、それは昂輝の虚をたまたまついただけ。
現に今回は全く通じなかった。
攻撃が当たっても見事に先読みして力を流しているのだから、本当に喰えない男である。
実質当喰らっていても痛みはそこまでないだろう。
「覚えてたのか」
海向からしたら、自分はそこまで強くないのに昂輝に覚えられている事が意外だった。
「俺と同じで、…抜けたんか?」
族の事を言うてるのだろう。
「そやな」
昂輝と話すのは案外嫌いではない。
一度だけではなく、二度も手合わせしたからなのか、嫌悪感は全くと言ってよい程になかった。
「別にお前の邪魔した訳じゃねぇ。ただ、海王かどうか聞きたかっただけだ。…悪かったな」
昂輝が素直に謝り、海向は思わず面食らってしまう。
そんなストレートな謝罪されるなんて思ってもみなかったので、一体どんな反応して良いのかわからなかった。
だが礼儀正しい人間は嫌いではない。
「いや…俺も頭に血ぃ登ってたわ。堪忍や…」
どうやら互いに拳を交えた事で、友情が芽生えたらしい。
「今度時間ある時にじっくり可愛がったるで」
どこまでも上から目線の女王様なのであった。
2025.03.13
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