思わぬ訪問者
海向に電話しようとするといきなりロックキーの解除する音が聞こえた。
色生が帰って来たんだと環がすぐさま飛び上がり、玄関へと駆け出す。
扉が開き、入って来た人物に環が思わず抱きついた。
「っ…!?」
その人物が息を飲む音がし、咄嗟に環の体に手を添える。
それがあまりにも嬉しくて、満面の笑顔で色生を見上げた筈だった。
「……」
「…………え?……誰?」
サラサラヘアのシルバーカラーでアップバングをした、超絶イケメンがいたのだったのだ。
しかもサングラスをかけ、小麦色に焼けた肌とのコンストラストが最高である。
「っ!!?」
環は目をこれでもかと大きく見開き、勢いよく後ろに飛び跳ねた。
「何や、熱烈やないか。それにしてもそないビビらんでもええやろ。自分から来よったくせに…。いや、ホンマ似てへんなぁ」
ふっと笑った顔は優しく、サングラス越しからもわかる程に人の良さそうな青年だった。
そしてまさかのどこかで聞いた事のあるような関西弁。
(似てない…?何が?)
男の言葉が若干気になり、環はじーっと相手を見つめた。
「あー…アカンわ。その眼、ホンマそっくりや。弱いねん、それされると…」
男は堪らんとばかりに綺麗に整えられた前髪を後ろに向けて梳いた。
更に額があらわになると顔の輪郭がはっきりとし、すっと伸びた鼻筋と薄く形の良い唇が際立つ。
「さすが兄弟やなぁ…。こっちを真っ直ぐ見る所や真っ黒でキラキラしとる瞳が一緒やないか。ただでさえ人間ホイホイなのに、環もなんかい…。いや、ホンマ、くっそ恐ろしいでこいつら…」
何やらぶつぶつ独り言を呟き、サングラスを取った。
すると想像以上の美形に、環は驚きを隠せない。
青い瞳に長い睫毛、黒いワイシャツを肘まで捲った先から見える筋ばった筋肉質な腕。
がっちりとした鍛えられた体と高身長に思わず見惚れてしまった。
そして見覚えのあるこの顔。
seyco entertainment所属バンド、Crownのドラム担当、和空だった。
「っ…、の…あ?」
そう環が口にすれば、嬉しそうに舌を出して喜ぶ。
「知っとんたんか、嬉しいわぁ。ioriにしか興味無い思っとったから、意外やで。ありがとさん」
何故、ioriにしか興味ないと知っているのだろうか。
そしてこの違和感は何だろう。
こちらはテレビ越しに和空を知ってはいるが、相手も環を知っている前提なのがおかしい。
環は芸能界にツテなどなく、あるとするなら百瀬に直接声をかけられ、シード枠で入ったと言う事だけ。
こんな有名で凄い人が自分を知ってる事がそもそも異常であり、あり得ないのだ。
「よう見たら、偉い色っぽい格好しとるやないか。俺、誘われとるん?」
にっと悪い男の笑みを浮かべれば、色気がぶわっと部屋中に広がった。
「綺麗な足しとるな」
和空はそう言うとずかずかと中に入って行き、環の前で止まる。
壁側を背にしていた為、和空と壁に挟まれる体勢となった。
壁に手をつき、環の顎をぐいっと上に向かせる。
ふわりと香る良い匂いと目の前に迫る美形に、環の口があわあわと面白い程に動いた。
物凄く焦っているのが手に取るようにわかり、和空は面白そうに微笑んだ。
「そない初な反応されると悪戯しとぉなって、堪らんわ」
和空の顔がゆっくりと近づき、環の目が大きく見開かれる。
動揺からか瞳が左右に揺れ動くのがわかり、それさえも男を喜ばせる行為だとわかっているのだろうか。
「ホンマ、初いのぉ」
反応が楽しくて、和空の喉が面白いとばかりに鳴った。
まるで今からキスをされるんじゃないかと言うような雰囲気に、思わず環がぎゅっと目を瞑る。
「あー、ホンマ、可愛ぇ…」
再び喉を鳴らして笑う和空は環の頬に触れるだけの口付けをする。
そしてすぐさまスマホを取り出し、カメラを構えて撮り始めた。
まさかの連続モードである。
「……へ?」
意味がわからないとばかりに環は閉じていた目を開き、カメラへと視線を向けた。
撮っている間ずっと口角を上げながら楽しそうにしている和空。
その間も頬にキスしたままである。
本当に意味がわからない。
「上手く撮れとるで。ええ感じや」
にっと嬉しそうに笑い、スマホを操作し始める。
誰かに今撮った画像でも送るのだろうか。
手の動きが素早いので確認の為に見ている動作でない事がわかる。
自分とのツーショットを送られて喜ぶ相手がいるとは到底思えないのだが。
暫くすると和空の気がすんだのだろう。
環はようやく開放された。
安堵すると共に体から力が抜け、ずるずると壁に背中をつけたまま座り込んだ。
色々あり過ぎて、もう足に力が入らない。
先程和空に顎を掴まれた瞬間、涼介のような事をされると思ってしまった。
身構えていた分、拍子抜けしてしまう。
そりゃ、そうだろう。
そんな事ある訳ない。
全国で人気の和空が自分に対し、変な事をするなんてあり得ないのに自分は何て想像力豊かなのだろうか。
涼介のせいで成人男性は未成年に手を出すイメージがついてしまったのは仕方あるまい。
「え!?ちょ、大丈夫かいな、環!」
和空はぎょっとして、慌ててしゃがみ込んだ。
環の顔を心配そうに覗き込み、眉を下げて狼狽えているのだから驚きである。
しかも和空が自分の名前を知っていた事が衝撃だった。
環がioriを好きな事を知っているんだから、名前くらい知ってて当然なのだろうが、それでも共通点も接点すらない和空が自分なんかを。
何で、どうして、誰から、しかなかった。
2025.03.14
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