tori


キャパオーバー


海向が環を抱き締めていれば、甘い吐息が耳にかかる。

「っ!?」

海向は思わず驚き、勢いよく離れる。
するとそこにはパジャマの上着が肩から脱げ、ボタンでかろうじて留められいるものの、両方の乳首を惜しげもなく露わにした環の姿だった。
パジャマの下は履いておらず、生足をこれでもかと見せつけているではないか。
頬は赤く蒸気し、体はほんのり赤みがかり、いつもよりも細められた目は色っぽく、歌っている時のような流し目をしている。
ふるふる震える体は庇護欲を誘い、抱き締めたくなる程に可愛らしかった。
同じ男に感じるなどおかしい、そう思い海向は視線を逸らす。
そうした事により、環のこんな姿を見ているのが自分ひとりでない事に気づく。

「色気ヤベェな…」

後ろから声がし、振り返れば微かだが動揺している昂輝の姿があった。

「女王様…これ、ダメだろ…。俺は耐性あるから大した事ねぇけど、童貞とか…、どっちでもイケる野郎とか、………下手したら男に興味ねぇ奴らも誑し込むんじゃねぇか…?」

はーっと大袈裟な溜息をつき、海向へと視線を向ける。

「…………そら、アカンわ。環はそう言う対象で見てえぇ訳ない。俺の友達にそないな事した奴等、全員葬ったるわ」

海向が環のパジャマのボタンをひとつずつ留めていく。
それをぼーっとした頭で微動だにせず、されるがまま受け止める。

「……無理あんだろ。あんな歌聴かされたら、女王様の言う…そう言う対象で見てくる輩増えんぞ。あの時…セックス中みてぇな顔してたもんな。何だよ、あの色気…。今なんか蕩けてんじゃねぇか…。話変わるけど、さっきいたの…Crownの和空、だよな?あんな上玉まで誑し込むとか、ヤベェだろ…」

何でこんな所にいるんだと言いたげな言い方である。
確かにここはCrownが所属するseyco entertainmentではあるが、この島にいるのはあくまでオーディション合格者のみ。
選ばれた練習生達がデビューするまでの場であり、日本人なら誰もが知っている人気バンドグループの和空が居る筈ないのだ。

「………」

海向が急に難しい顔をして押し黙る。
それを昂輝は不思議そうに見やった。

「……海向?」

すぐ傍から声がし、はっとすれる。
明らかに昂輝の声とは違うのだ。
環の方へ視線を向ければ、やっと正気に戻ったのだろう。
何が起きたのかわからないとばかりに戸惑いの表情を浮かべる環がいたのだった。

「環…」

海向がほっと胸を撫で下ろす。
正直、男に興味なんてない海向ですら、ほんの一瞬だけ、気の迷いと言うのだろうか。
目を奪われる程の強烈な色気を感じてしまい、変な感覚に陥った。
でもそれも杞憂に終わったのだろう。
いつものぼへーっとした、ぽやぽや環がそこにいたのである。

「……」

それにはさすがの昂輝も驚きである。
先程、色気爆発させてた人間とは思えない程の平凡さに開いた口が塞がらない。
これは本当にあの時優勝した奴と同一人物なのかと疑わずにはいられなかった。
まるで何も知らない子供だ。
自分もまだ未成年だが、そう言う意味の子供ではない。
最近まで中学生だった名残りが消えず、純真無垢な少年そのものなのだ。

「……マジ…かよ…」

昂輝の声に海向だけが気づく。
ちらっと横目で見やり、それ以上何も言うなと言う圧を放つ。
海向からの視線で悟った昂輝は、無言のまま小さく頷いた。

「あれ…?俺…」

どうやら先程までの記憶が無いと言うか、自分の置かれてる状況が理解出来ない様子である。
今日一日で色々あり過ぎて混乱するのも無理ない。
オーディション開始から合格、そして何者かに襲われたであろう電話、からの和空に手を出されていたのだから。

「何で俺、ここ…に…」

そう言いかけた瞬時、フラッシュバックしたのだろう。
突如ガタガタと震え、顔を真っ青にして顔を伏せた。

「環…!?」

海向が顔面蒼白にし、環に触れようとすれば勢いよく叩かれる。

「!?」

まかさ拒絶されるなんて思ってもいなかったのだろう。
海向が物凄く傷ついた顔で固まる。
それを目にし、環がはっと我に返った。

「っ…、あ…、ごめ…」

環は手を叩き落としてしまった事と、それにより海向を深く傷つけてしまった事に罪悪感を感じてしまう。
自分を心配し、ここまで来てくれたのに。
海向には何の落ち度もない。
だた触れようとした手が涼介のものと重なって見えた。
ほんの一瞬だけ、あの時の恐怖が蘇ったのだ。
あの男とは全く別人だし、海向が自分にあんな感情向けないとわかってる。
それなのに、先程は酷く怖くて仕方なかった。


2025.03.18

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