tori


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「女王様…」

昂輝が海向を励まそうと近づけば、環の肩がびくりと大袈裟なくらい跳ね上がった。

「……だ、れ…!?」

見た事もない長身で柄の悪い男に、先程よりも更に環の体がガタガタと震える。
乱れた呼吸が尋常ではない。
健康的な色をしている肌は恐怖から血の気が失せ、真っ白に変わった。
海向からしたら同室者であるが、環からした今初めて見た顔で、しかも厳ついヤンキーだ。
そりゃ恐怖心の対象でしかないだろう。

「海老名…、それ以上近づいたらアカン。環が怯えとる…動いたら、殺すで…」

ぼそりと海向が小さく呟く。
あまりの気迫に、ぎくりと昂輝の体が強張り、己の意識とは関係無しに動きが静止した。
これは恐怖からだろう。
KEPLER元総長から出る威圧だ。
びりびりと感じる刺すような殺気。
指先ひとつでも動かしたら、本気で殺されそうな勢いである。
昂輝の心臓がぎゅっと鷲掴みされた。
ぎりぎりと胃にくる程の気持ち悪さの中に感じる圧倒的な支配力。
こんなに美しい見た目をしているのに、己よりも遥かに強いなど惚れない筈がない。
表にこそ出さないが、胸が踊り出す程に歓喜している。
海向に支配され、圧倒的な強さに屈服する自分を想像するだけで興奮させられた。
熱く燃えるマグマのような熱が中心に集まってくる。
この時、昂輝が海向に落ちた瞬間であった。

「……環、平気や。安心せぇ、危害なんて加えへん。俺や、……海向や」

そう優しく問いかければ、びくびく震えていた体が少しだけ収まる。
可哀想なくらい真っ青な環を見て、海向が優しく微笑んだ。
そんな2人を見て、昂輝の中に僅かに広がる嫉妬心。
海向からかけらる優しい言葉と表情。
きっと自分には向かない事がわかる。
背後にいるから見えないが、想像絶する程に綺麗な微笑みを浮かべているのだろう。
それを独り占めしている環が羨ましくて仕方なかった。

「電話で呼んでくれたやろ?遅くなって、堪忍な…。助けに来たで…」

包み込むような優しい声に、環が海向と昂輝を交互に見やる。
環と昂輝の視線がばちりと会う。
その際、微かな嫉妬が混ざり、昂輝は環をきつく睨みつけてしまった。
無意識なのだが、それでもヤンキーの睨みとはとても怖いものだ。
びくりと環の体が震える。
それに海向が気づき、昂輝を殺気じみた視線で睨みつけた。

「海老名…何してんねん。はよ、背中向けろや」

環には聞こえない程の小さな声。
だが確実に怒りと失望が混じり、ドスの効いたそれに昂輝の体が再度びくりと反応した。
海向がブチ切れてるのがわかり、昂輝の体が恐怖により震える。

「大丈夫やで、環。こいつ、こんな怖ぁい顔しとるが、俺の忠実な下僕や。何も怖くあらへん…。お前に何かしようもんみな、俺がしばいたるで」

にこりと海向が微笑み、環の視線を昂輝から外すように声をかける。
慌てて昂輝が背中を向ければ、環が安心したのか海向へと視線を向けた。
そして何よりも色生と同じ言葉を言ってくれた事が凄く嬉しくて、胸がふわりと暖かくなる。

「俺はお前の味方で友達や。何も怖い事あらへん…。な、…そっち行ってええか?」

海向がまるで幼い子供に話しかけるような声に、環は少しだけ戸惑いながらもゆっくりと頷いた。

「おおきに」

ほっと胸を撫で下ろし、ソファーに座った。
その時に互いの肩が触れ、環がびくりと体を強張らせる。

「環…さっきも言うたが、俺はお前の友達や。何があってもどんな事があっても傍から離れへんし、これからもずっと一緒や…。そう思うん、俺だけやないよな…?」

環を見つめ、海向は真剣に告げる。

「うん…、俺も…」

おずおずと環も海向を大切な友達であると伝える。


2025.03.19

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