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「環、俺に嫌われるって思ったんか…?怖いんやなくて…軽蔑される思うたんか…?」
恐る恐る聞けば、こくりと頷く。
海向の胸がぎゅっと締め付けられ、目がチカチカする。
何だこれは。
先程も感じたが、この可愛らしい生き物は本当に自分と同じ男なのだろうか。
顔を真っ赤にしてぼろぼろと涙を流す姿が美しいのだが、先程感じた絶望感が完全に消え失せる。
正直、環に拒絶された時はショックで何が起きたのか理解出来なかった。
まさか手を叩かれるなんて思いもしなかったし、一気に落ち込んだ。
けど、今は口元の笑みが止まらず、凄く嬉しくて堪らないのだ。
自分に嫌われるのが怖い。
そんな風に言われて喜ばない訳がない。
友達ってこんなにむず痒いものなのか。
言葉ひとつで一喜一憂する自分に驚きが隠せない。
友達ってもっと淡白で冷めたイメージがあった海向にとって、衝撃以外の何物でもなかった。
時に良い事も悪い事もし、笑い合う映像が流れる。
KEPLERに入ってからつるむ連中達の顔が頭に浮かび、喧嘩に明け暮れた楽しい時を思い出す。
あれも良かったが、今回のは比較にならない何とも言いがたいほわっとした感情。
今まで感じた事のないような胸の高鳴りが海向を支配したのだった。
(ちょう待って…!可愛過ぎん??何やねん、これ!!さっきのエロいのも衝撃やったが、こっちのがヤバないか?アカン、好きやわ。ドンピシャで好みやわ…。…は?可愛いって何や!?好き?…まぁ、友達としてな。……つか、好みて何や??誰が?……はぁ?)
海向は自分に対して、自問自答を繰り返していた。
「環、もしかしてあんまスキンシップ慣れてへん?」
海向の言葉に環がこくりと頷く。
「歌…ばかりだったし、俺の町に同い年の友達もいなくて…先生とか近所のおばさんとか、町のおじいちゃん達が友達だったから…。」
それに対して、海向と昂輝がカチンと固まった。
もう全部がキャパオーバーである。
同年代がいない町ってなんだ。
どんな田舎だよ。
友達が親世代から上って、どう言う事だ。
「だから、海向が友達になってくれて…凄く嬉しい…」
そう言って、ほにゃりと笑いながらぽろぽろと涙を流す破壊力と言ったら凄まじいものだった。
海向は顔を真っ赤にして固まり、昂輝は思わずびっくりして振り返ってしまう。
そして環を見て、昂輝の目が大きく見開いた。
ふにゃっとした無防備な微笑みに、未だに色気漂う彼シャツ的なパジャマのアンバランスさ。
このギャップに海向だけではなく、昂輝までもノックアウトされたのは言うまでもない。
(アカン!俺が初めての友達とか、何やねん!俺をどないするつもりや?ホンマ、アカンて)
(このぽやぽやした生き物なんだ?可愛過ぎるだろ?いや、でも俺には女王様いるし…。あの冷たい目線で踏まれてぇけど、この危なっかしい天然、…堪らねぇな。色々教えたくなるだろ…)
昂輝が振り返ってる事に気づき、海向がぎょっとする。
その時の顔と言ったら、気持ち悪い程に鼻の下を伸ばし、厭らしい目で環を見ているのだから許せたもんではない。
「海老名、ふざけんなや!!何、見てんねん!!誰が振り返ってええ言うたんや!?鼻の下伸ばすな!!環を見んな!!ホンマ、きっしょいわ!!」
環を隠すようにして、昂輝を足でげしげしと蹴り上げる。
それにより体勢を崩した海向が環に覆いかぶさるような形でソファーに後ろから倒れてしまった。
「んっ…」
環から洩れる甘い声。
海向が目を大きく見開き、視線を向ければ自分が押し倒しているかのように環がいた。
「っ…!!?」
とろんとした半開きの瞳が潤み、桜色の唇から見える赤い舌。
その色っぽい姿に海向の喉がはしたなく鳴った。
「あ…」
とんでもない色気を目の当たりにし、海向の息子が反応してしまう。
若さ故だろうか。
同性に向け、初めて感じた性欲であった。
「………あ?」
海向は己の息子を見て、固まる。
スラックス越しにでもわかる程に勃起しているのだから。
「大丈夫?」
環が海向に声をかける。
自分に覆いかぶさっている為、海向の胸に両手を添えて、心配そうに見つめる視線と目が合った。
その瞬間にばくんと聞いた事のない胸の鼓動。
爆発でも起きたかのような破裂にも似たそれに、海向が固まる。
「どこか痛めた?」
環が海向の様子を不思議に思い、ペタペタと見える範囲を触っていく。
肩から腕に始まり、首や頬、そして頭へと移動する環の手の感触がやけに熱く感じる。
ばくばくと心臓の音が大きく跳ね上がり、海向は目を大きく見開いて環を見つめた。
「海向?」
ふと重なり合う視線。
その瞬間にどくんと再び大きく胸が鼓動する。
かあっと顔に血が集まるような感覚に、体がぶるぶると震えた。
何だこれは。
呼吸が出来ない程に苦しい。
そう思うも環から視線を逸らす事が出来なかった。
心臓が壊れたかのように激しい動悸がし、胸を抑える。
それにより胸を打ったと思い込んだ環が慌てて上から手を重ねた。
「海向!え、大丈夫か!?」
海向の手の甲に触れる環の体温。
こんなにも必死で心配してくれる環の優しさと温もりに、きゅんと胸が高鳴った。
「あー…、アカン…」
そう呟き、頭を抱えた。
その様子を見ていた昂輝は自分が恋心を自覚した瞬間に、その相手もまた恋に落ちる瞬間を目の当たりにし、何とも言いようのない顔をしたのだ。
キャパオーバー&トライアングル。
2025.03.19
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