tori


やっていける自信がない


結局、あれから謎が多く残ったまま、割り当てられた部屋へと海向達と共に向かう。
一人て帰れると言う環の提案を断り、過保護な海向は部屋まで着いて来ると言うのだから、全力で断った。
だが、あんな姿を見せたからだろう。
海向が引く事はせず、何故か昂輝までも着いてくるのだから、これはもう自分が諦めるしかないと腹を括った。

「何や、隣やないか」

海向の言葉に環がきょとん顔をする。

「え?海向、そっちなの?」
「おん、俺だけやないで。海老名もや」

昂輝に視線を向ければ、何を考えてるかわからない不気味な笑顔を向けられる。

「……そっか」

環は愛想笑いをし、とりあえずスルーする事にした。

「俺がおらんで平気か?」

海向が心配そうに環を覗き込む。
同じくらいの背丈だが、若干環の方が高いので海向の大きくて綺麗なぱっちり二重と青く透き通るような瞳に思わず見惚れてしまう。

「…ありがとう。俺は大丈夫。…さっきは取り乱して、ごめん。」

へらりと気の抜けたような笑みに、疑いの眼差しを向けられる。
そこも敢えてスルーして、スマホでロックキーを解除した。
自動式のドアが開いた瞬間、3人の鼻につんざくような青臭くて生臭い匂い。

「っ…う…!」

半端ない臭さに環の喉奥から吐き気がし、その場でえずく。
海向が慌てて環の背を擦り、室内を瞬時にみわたす。

「臭っ!?」

昂輝が堪らず手で鼻を摘み、ズカズカと室内へ入って行った。
行為に及んだにしては尋常じゃない臭さに、強姦の文字が浮かぶ。
共同リビングは特に散乱しておらず、綺麗なようだった。
ならばこの臭いの出処はどこなのだろうか。

「うぇっ…!」

環が何度もえずき、その場でうずくまる。
海向はポケットからハンカチを出して、環の口元へ宛ててあげれば柔軟剤の匂いにほっと胸を撫で下ろす。

「っ…ありがとう」

海向だって吐きそうな筈なのに、自分の事よりも環の心配をしてひとつしかないハンカチを渡してくれる。
その優しさに胸が暖かくなった。

「おおきに」

にこっと美しい笑みを浮かべ、環の背中を何度も優しく擦った。

「てめぇかこの臭いの原因は!?」

昂輝のブチ切れた声がしたと思えば、間延びした緊張感のない声が聞こえる。

「え〜、君が最後の同室者ぁ〜?全然可愛くなぁ〜い」
「あぁ!?」

昂輝のメンチ切る声が聞こえるが、相手の男がまるで気にも止めずにのうのうと挑発しているように聞こえる。

「ねぇ、一緒に片付けしてよぉ〜。チャイナくんにお願いしたら、殴られちゃったぁ〜。酷いよねぇ〜」
「うわぁ!?汚ねぇ!!?踏んだ!!!」

昂輝は何かを踏んだらしくて、悲鳴に似た雄叫びをあげる。

「あ、それ、俺のセーシだよぉ〜」
「セーシ…?せーし…、精子!?ぎゃあぁぁぁ!!!?」

何だこれは。
このコントみたいなやり取りは。

(俺…これから先、やっていけるのかな…?それにしても臭っ!!)


2025.03.23

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