どこにでも嫌な奴はいるもんだ
オーディションが始まるまでの間、環と泉水、海向の3人は壁に寄りかかって話をしていた。
すると耳に入って来るのは、泉水のドラムの凄さはプロレベルだと言う事と、それなのにメンタルが弱いせいでなかなかデビュー出来ないと言う発言。
海向は外見だけで伸し上がったえこ贔屓だ、実力もない癖に、とか酷い言われようだった。
「…落ち着け?…ここで問題起こしたら、オーディション脱落するぞ」
泉水は冷汗をかき、必死で海向を止めた。
自分も酷い言葉言われたが、今にも胃が壊れそうだが、それよりも問題は海向である。
今にもブチギレそうな顔をして、コソコソ言う少年達へと喧嘩売りそうな勢いで飛び出そうとしていた。
「そんな2人に比べて、何だ?あの平凡。地味で目立たないし、顔も普通で特徴もねぇじゃんか。芸能界はある程度顔が重要なのに、あんなブサイクがエントリーとか、今年は楽勝で合格出来んじゃね?」
その声を聞き、泉水と海向は瞬時に環を見る。
すると環はニコニコと微笑んだまま、陰口を叩く少年達には目もくれず、2人に向き合う。
「言いたい人には言わせておけば平気ですよ。俺は何を言われても大丈夫です。折川さんはメンタル弱くなんてないですよ、どんな時でも冷静で男前です。そして、連城くん。君の外見は誰もが魅了する程に素敵で格好良いですから、ギターであいつらを蹴散らしてやって下さい。折川さんもドラムでとことん絶望させちゃって下さい」
その言葉に海向は目を大きく見開き、驚く。
泉水もまた環のメンタルの強さに驚かされたのだった。
言われたのは自分も同じなのに、むしろ貶されて、馬鹿にされたにも関わらず、何も嫌な事はありませんとばかりに笑顔でいる事に脱帽である。
「蹴散らすって、絶望って…。相当、根に持ってんじゃねぇかよ…」
泉水の言葉に環が声を出して笑う。
「そりゃあ、そうですよ。俺の事はともかく、友人の悪口言うような人間、絶対許しませんもん」
その言葉に泉水も海向も感動し、若干目が潤む。
気にする所か、自分達を褒めて、慰めてくれて、更には己よりも他者の心を労ってくれるなんて。
本当に良い奴だなと思う2人だった。
「2人は間違いなく実力でここまで来たんですから、ここにいるって事が何よりの証拠です。まぁ、それは俺もなんですけどね」
にやっと人の悪い笑みを浮かべた環に、泉水と海向はきょとんとした後、大爆笑だった。
「自分、面白いで!!そない自分の口で言うはる事ないやん!!ヤバいって!!」
海向は腹を抱えて、目に涙を浮かべながら笑い、泉水もまた口元を手の甲で抑え、吹き出した。
「環の歌、楽しみだな」
泉水が苗字呼びから、名前呼びになる。
「ホンマやで、環。歌で圧倒させたってやぁ」
続けて海向も名前呼びとなった。
「名前…」
環が嬉しそうに呟けば、泉水が環の肩に手を置いた。
「敬語もいらないし、俺達の事も名前で呼べよ…」
にっと少年っぽく笑う泉水に、こんな幼い笑い方をする人なんだなと新たな一面を知るのだった。
「じゃあ、泉水、海向、これからもよろしく!」
その発言に、再び2人は固まった。
「あれ?」
反応がいまいちなので不思議に思えば、2人は同時に笑う。
「さっきまで、さん、とか、くん、付けだったから、てっきり付くのかと思ってたけど、つかないのかよ…!」
吹き出して笑う泉水に、海向はツボったらしくてしゃがみ混んで爆笑していた。
「え?あれ?ダメだった??」
よくわからないとばかりにきょとんとする環。
「いや、ダメじゃねぇよ。…むしろ、嬉しい」
泉水は良い子良い子と環の頭を撫でる。
「お前は本当、可愛いな…」
弟を見る兄のような優しい顔に、環はほっと胸を撫で下ろすのだった。
「それではオーディション開始します。番号札順に呼びますのでそれぞれ志望したジャンルを披露して下さい。」
こうしてオーディションが開催され、環は19999番の番号札をぎゅっと強く握ったのである。
ひとりでも欠ける事なく、この3人でオーディション合格したい。
2025.01.29
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