tori


スルースキル


海向と別れ、教室に入ればたくさんの生徒達が各々過ごしていた。
中でも入口付近に人が集まり、何かを囲んでいるではないか。
進もうとするもその人だかりのせいで通れずにいた。
もうひとつのドアから入ろうと思い、振り返って歩き出した瞬間、壁のようなものに当たってしまう。


「ぶっ…!?」

顔面をぶつけたものの、そこまで痛くなかった。
恐る恐る目を開ければ、それが人の背中である事に気づく。

「……痛いんだけど。……ちゃんと前見て歩いてよね」

海向のもうひとりの同室者である律がいた。
もちろん環はそんな事知らないので、ぶつかった顔を手で押さえる。
まるで興味ないといったように律の視線がゆっくりと環へと移った。
目の前にいるのに、まるで何も映してないかのように光を失った瞳。
ここまで何を考えてるかわからない目は初めてだった。
ばちりと互いの視線が合うもやはり律の表情は一切変わる事がない。
まるで興味がないのだ。
誰にぶつかろうと、誰がいようと、誰と会話しようと、律にとってどうでも良い事だった。

「……あ」

ぶつかった拍子にイヤホンが外れ、ころころと床に転がった。

「わっ…」

環の上履きにこつんと当たり、止まった。

「……それ、取って」

上から見下され、びくりと環の肩が揺れる。
20cm程高い相手から拾えと言われ、まるで命令されてるような気分になった。
実際には拾えなど言っておらず、取って欲しいとお願いしているのだが。
高身長とこの何を考えてるか全くわからない表情に拍車がかかっていた。

「あ…、はい!ぶつかって…すみません」

環は慌てて拾い、律に渡した。

「ん」

一言だけ答えるとあくびをして歩き出してしまった。
全く掴み所のない人だなと思い、環も歩き出せば、まさかの同じクラス。

(……あの人もヴォーカル志望なのか。声確かに落ち着いてて、綺麗だったな…)

律の後を追うように後ろのドアから教室の中へ入れば、迷う事なく3列目の最後尾に座り、速攻で眠りについた。
眠そうなあくびをしており、常に生気を感じられないのは眠気も相まってかもしれない。
寝息がすーすーと聞こえて来る。
座って数秒なのに寝付きの早さに驚愕してしまう。

「…あ、席」

環はスマホから自分の席を確認して歩き出した。
先程、律が座った席の前である。
何となく気まずい気持ちを振り払い、起こさないようにそろりと歩いて環も席に着いた。
小さな溜息をし、前に視線を向ければ未だに先程の人だかりが耐える気配はない。
あそこに何があるんだろう。
そう思い気にしていれば、隣の席から声をかけられた。

「あー、あれな。どうやら有名人らしいぜ」

環が声のする方へ視線を向ければ、茶髪のベリーショート少年が苦笑いしている。

「あ、悪い、急に声かけて。俺、土屋つちや知之ともゆき。佐野、だよな?歌凄く上手かったな!思わず聴き入っちゃったよ」

太陽のような笑顔に、環も自然と笑顔になる。

「ありがとう」
「同じクラスになれて、嬉しいぜ!これからよろしくな!」

2人が挨拶してれば、中心にいる人物が立ち上がった。
それだけなのに黄色い悲鳴が聞こえ、環は小首を傾げる。

(あれ?ここって男子校だよな?声高くないか?)

キラキラがエフェクターかのように金髪のセンターパートヘア美男子が近付いて来る。
そして環の前でぴたりと止まった。
周りのギャラリー達がひそひそと何か話し始める。

「優勝おめでとう。君が佐野くんだね?僕はオーディションには参加出来なかったけど、特別推薦で合格が決まってたんだ。よろしくね」

そう言って環を通り越して、律の隣の椅子に腰掛けた。

「ん?」

知之がコミカルな顔をして、キラキラエフェクター美男子を見つめた。
どう見ても優勝した佐野環は知之の隣に座っているのに、何故か別の少年に声をかけているからだ。

「ちょ、佐野…あれって…」

知之が小さな声で環の耳元で呟く。

「え?」

全く状況を把握してない環に、がくりと項垂れた事は言うまでもない。


2025.04.09

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