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「佐野くん、よろしくね」
そう言って、律の肩をぽんと叩いた。
それにより気持ち良く突っ伏していた律が目を覚ましてしまう。
「……あんた、誰?」
イヤホンをゆっくり外して、律はむくりと起き上がる。
するとあまりの美形さに、美男子が口をぽかんと開けて酷く驚いた。
周りのギャラリー達も当然ながら唖然としているではないか。
それもそうだろう。
律の見た目はとても美しく、整った顔をしており、更にはスタイルも良く小顔なのに高身長なのだから。
「……俺に何の用?」
無表情なまま、眠りを妨げられた事に若干不満気味なのが見てわかる。
「……へぇ、…佐野くんって格好良いんだね」
どうやら気に入らなかったのだろう。
美男子からすっと笑みが消えた。
「……さの?………」
くだらない事で起こされた律だったが、回らない頭で考えるも面倒臭くなったのだろう。
隣にいる美男子をガン無視して、ゆっくりと目を閉じた。
「……前の人、……先生来たら、起こして…」
環の事を呼び、目を開けないまま律が伝える。
一瞬、自分の事だと理解してなかった環はぴしりと固まった。
「………え?…あ、俺!?」
まさか声をかけられるとは思ってなかった環が、この空気の中で話しかけられて、居たたまれない顔をするのは仕方ない事である。
「……俺の前には君しかいないでしょ」
どうやら美男子の事は完全にスルーらしい。
まるで居ないものとして扱っているから、周りは口をあんぐり開けて微動だにせず凝視していた。
「ですよねぇ…。先生来たら、起こしますね」
そう言って、環は律と会話する羽目になり、更に先生が来たら起こす重要な役割を不本意ながら任命されてしまった。
掴み所がないとは思っていたが、ここまで自由な人は見た事がない。
やはりあの時感じた気まずさは気のせいでない事を悟ったのだった。
「ん…」
環の返事に満足したのだろう。
律は再びイヤホンをつけ、速攻で眠りについたのだった。
「この僕が声をかけてあげてるのに、何それ?ちょっと起きろよ!!」
美男子がブチ切れ、律の腕を掴んで立たせた。
つもりだったのだが、律の体はびくともしない。
長身で細い体だから、すぐに持ち上げられると思っていた美男子は目を大きく見開いた。
「……はっ?」
律の完全無視に、美男子が動揺した声をあげた。
全く相手にされていない事に、焦りを感じているように見えるのは気のせいではないだろう。
「……ちょっと、本当に何!?」
美男子がずっと話してる姿とあまりにも無様な狼狽え方に、ギャラリー達の目が段々と冷めていくのがわかる。
こんなにキラキラエフェクターを醸し出しているのに、全く相手にされない情けない姿に、ちやほやしていた人間達がしらけるのは早かった。
「うーわ…、はっずっ…」
誰かの恥ずかしい発言で、美男子の顔が真っ赤に染まり、わなわなと震える。
鼻の穴を膨らませ、唇を噛みしめる姿は不細工極まりなかった。
それをクラスの半数が馬鹿にしたように笑うものたから、美男子のプライドはズタズタだろう。
居たたまくなったのか、逃げるように教室から出て行ってしまった。
あれだけいたギャラリーは誰ひとりとして、美男子の後を追う者はいなかったのである。
律は我感せずと目を閉じたまま爆睡。
周りの生徒達はあまりにも堂々としたスルースキルに驚きと尊敬を抱く者も増え、何者だとざわめき始める。
何が起きたのかわからず、環は知之と律を交互に見てただ唖然としていたのだった。
「すっげぇな…あのスルースキル」
知之の言葉に環や周りのクラスメイト達が同時に頷く。
「俺、びっくりしちゃった。佐野って言ったよな?凄い偶然。そこまでありきたりの名字じゃないのに、俺と同じなんだな」
「いや…、違うと思うぞ。あれは…」
ハテナマークを浮かべ、環はぽやんとした顔をする。
そんな様子を見て、説明しようとした知之が諦め、脱力したのは言うまでもない。
「こっちもこっちで別の意味でのスルースキルかよぉ…。マジでツッコミが追いつかねぇ…」
2025.04.09
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