tori


視線


担任の先生がホームルームを始める中、律は未だに爆睡していた。
ひとりひとり、出席簿で名前を確認していく。
いよいよ環の番になり、名前を呼ばれた。
するとクラスからどよめきの声があがったのである。

「え!?あの優勝した奴じゃね?つか、普通ー」
「嘘だろ、あの後ろの美形が佐野じゃねぇの?」
「同姓同名だろ?あんな平凡じゃなくね?すっげぇ色気だったじゃん」
「わぁ…マジかよ!、同じクラスとか、嬉しい!!」

様々な言葉が行き交う。
環は全部自分に向けられた言葉だとわかりつつも敢えてスルー。
いきなりこんな自分が目立てば、そうなるわなと腹を括るのだった。

(うーん…どこに行っても付き纏うんだよなぁ…。両親が美形なだけに、俺が息子だと紹介された時と同じ反応をみんなするし。慣れてるとは言え、好きじゃないんだよね、この空気…)

ふうっと小さな溜息をつくのだった。
そんな中で強い視線を感じ、そちらに顔を向けたら、先程の少年と目が合ってしまう。
透き通るような茶色の瞳が環をはっきりと捉え、強い意思をもって見据えられた。
遠目からでもわかるが、彼がかなり硬派な男前である事が伺える。
そんな人間が何故自分なんかを見てるんだと疑問に思いつつ、辺りをきょろきょろ見回した。
誰も彼の視線には気づいていない。
ならば、この物凄い熱い視線は自分に向けられているで間違いないだろう。
今度は環の方が居たたまれなくなり、目を逸らした。
何でかわからないが、あのまま視線を合わせていたら取り返しがつかないような、そんな危険な香りがするのは気のせいだろうか。
そう思い、少しだけ怖くなったのだ。

「浅間律」

その後ろで爆睡する少年を呼んだ担任。

(え!?後ろの人って、佐野じゃないの!?)

環はてっきり同じ苗字とばかり思っており、勝手に親近感が湧いていたが、どうやら違うらしい。
仲良くなりたいと思った気持ちが萎えた瞬間だったのだ。
そんな環の反応を見ていた知之が、肩を震わせて笑っていた。

「浅間律!」

担任の強めの声にぱちりと律は目を覚まし、ゆっくりと顔を上げた。
すると寝起きにも関わらず、驚く程に整った顔立ちと、まるで光の籠もっていないミステリアスな瞳に、担任はおろか誰もが言葉を失う。

「……はい」

返事をすれば、担任ははっと我に返り、慌てて咳払いする。
もう寝るなよ、と付け加えて、そのまま次の生徒の名前を呼んでいくのだった。
どんどん進んでく中、先程の強い視線を送って来た少年の番になる。

勅使河原てしがわら礼貴れき
「はい」

すっと伸びた背筋に、低く落ち着いた声。
まるで武士のような佇まいを見れば、運動部に所属していたのは一目瞭然である。
環がじーっと見てれば、礼貴が振り返った。
互いに視線が交わると、礼貴は再び真っ赤な顔をして慌てて視線を逸らしたのだ。
やはり間違いないだろう。
礼貴は確実に環を見ていた。
あの視線の意味は未だ不明だが、こちらを見ていたのは自分を見る為なんだと納得せざる得なかった。
環も何だかそわそわし始め、良い気分ではいられず、ゆっくりと膝へと視線を移す。
そんな2人の様子を一部始終目撃していた知之は少しだけ難しい顔をしたのだった。

(えー…?何、あれ?何で、俺ばかり見るの?知り合い?それとも俺、知らない内に何かやっちゃったか?えー…、全く心当たりがないんだけど…)

何かある度に見られ続け、目が合う度に逸らされるの繰り返しである。
その後も授業が過ぎる度に視線を感じては逸らされ、もう気になって仕方なかった。
知之が先程話したように学期毎セッションの話となる。
それに向け特別練習期間も設けられるようになり、通常授業は停止。
毎回課題が決まっている為、本格的な試験と同じに捉えて欲しいとの事である。
海向と泉水からほぼ同時にラインが届き、セッション組もうと言う文字にはさすがに笑ってしまった。

「いやぁ〜、あれはもうファンなんじゃね?むしろ、ストーカーか?」

知之が白い歯を見せて、悪戯っ子のように笑う。
違うと言い切りたかったのだが、反応を見ている限り、環自身もそう感じてしまっていた。

「ちょっと否定出来ないんだけど…。どちらにしても怖すぎるよ、目力凄くてキツイ…」

見られ過ぎて窶れ気味である。
自分なんかを見て、何が楽しいのか全く理解出来なかった。

「ちょっと話してみたいよなぁ」

その一言から始まった。

「………」

礼貴の席まで来た環と知之。
信じられないとばかりに驚愕の表情を浮かべる礼貴。
大きな体が机と椅子にミスマッチであった。

「あの…ずっと俺の事…見てなかった?……俺、勅使河原くんに…何かしたかな?」

その一言にぼんっと音が鳴る程に顔を真っ赤に染める。
壊れたブリキの玩具のような動きになっているではないか。

「うわ…予想以上だな、これ…」

知之が苦笑いして、礼貴と環を交互に見つめた。

「えっと理由が知りたいんだ…。何で俺の事…」

そう聞いてる途中に、礼貴が勢い良く立ち上がった。
すると想像を遥か超える程の長身と体の大きさに環も知之も驚き、後退る。
元々ガタイは良いとは思っていたが、目の前で立たれるともっとがっちりしていたのだった。

「っ……!」

礼貴は更に顔を真っ赤にし、口をぱくぱくさせながら驚きの表情を浮かべる。
環を見て、困ったような顔をしたかと思えば、思い切り目を瞑ったのだから驚くしかない。

(えええ…!?俺、何か、変な事言った!?)

「っ!」

閉じた目元から若干涙が出ているような気がして見ていれば、礼貴の体がぶるぶると震え始めた。
尋常じゃない様子に、知之が心配し始める。

「え…?おい、大丈夫か…?」

そう声をかけた瞬間、物凄い勢いで教室から出て行ってしまったのである。

「って、おぉお…!!?」

知之の驚きの声をよそに、環が何が起こったのかわからず、礼貴が居なくなった後もずっと口をあんぐり開けたまま固まっていたのだった。


2025.04.11

- 56 -

*前次#


ページ: