tori


後任


校庭の隅にある一角では赤いレンガに囲まれた美しい花々が咲いていた。
それを一葉が自分の飲んでいたペットボトルで水やりをしている。
もちろん中身はミネラルウォーターであり、それが無くなれば近くの蛇口から水を入れ、再び花に水をあげるの繰り返しをしていた。

「ふわっふわっなお花〜、綺麗になぁれ〜」

自作の歌まで歌い、ルンルン気分で色鮮やかな花達をにこにこ笑顔で見つめている。

「今日もお天気、気持ちいぃなぁ〜。水やりしてるイケメン素敵だなぁ〜」

どうやら同時に自分の事も自分で褒めている様子だ。

「人間になったら、あなたに抱かれたい〜。早く僕を迎えに来て〜」

花の気持ちを表しているらしく、お昼休憩になったので登校途中に見た綺麗な花壇でひとり食事した後に、ずっと水やりをしていた。
可愛い男の子も綺麗な男の子も大好きだ。
見た目が美しいものにとても惹かれる。
けど、心が美しくないとどんなに綺麗で可愛い子でも不細工に見えてしまう。
昨日抱いた子のように、彼氏がいるにも関わらず、浮気するようなお股ゆるゆるな子は好きじゃない。
直ぐ抱ける子は後腐れなくて都合の良いセフレとしては良いけど、いつも一葉の心に住まうのは心が綺麗で一途な真っ直ぐな子。
今までたくさんの子を抱いて来たが、どれもみんな性格は良くなかった。
見た目重視で選ぶからなんだろうが、一葉のポリシーとして不細工を相手にするのだけはごめんである。
いざセックスしようとした時に萎えて、使い物にならないなんて、互いに最悪だろう。
外見好み以外の子を抱いた事ない一葉だが、何となく毛嫌いしていたのだ。
所詮、食わず嫌いなだけである。

「おはようございます!!水やりしてくれてるんですね!!僕の仕事なのに、ありがとうございます!!」

はきはきとした体育会系の話し方。
突然、影が出来たと思ったら、ひとりの青年が近寄って来た。

「おはよ〜。綺麗なお花さんを見つけてねぇ〜。可愛い子は愛でてあげないといけないからねぇ〜」

にこにこっと一葉は顔だけ上げて、声のする方向に返事した。
するとカーキ色のつなぎを着た、あごひげをはやしたおじさんが立っていたのである。
てっきり体育教諭かと思っていたから、驚いてしまい言葉を失った。

「そうなんですね!!こちらの学生さんは皆さん丁寧で、優しいですよね!あ、遅くなりました!僕は本日より用務をさせて頂きます諸橋もろはしみなみです!よろしくお願い致します!」

30後半だろうか。
麦わら帽子を被り、あごひげをはやし、小麦色に焼けた健康的な肌がとても印象的だ。
180cmは越える程の身長に、がっしりした体型。
少しムチムチしているのは運動をしていたからなのだろうか。
そして話し方がとても好青年であり、何より笑顔が眩しい。
一葉は目を大きく見開き、思わず南を凝視してしまった。

「生徒さんのお名前は何ですか?」

にこにこと太陽のような爽やか笑顔。
ゆっくりと一葉の隣にしゃがみ込んだ。
あまりにも自然に笑うものだから、一葉は一瞬だけ反応が送れてしまう。
今まで自分の周りにいなかった、損得など存在しない純粋な笑顔。
あまりにも眩しくて、目を細めてしまった。
はっと我に返り、いつものように取り繕った表情へと戻る。

「……俺は明瀬一葉だよぉ〜。よろしくねぇ〜」

半ば無理矢理言わされた感が否めないが、ドン引きせずに普通に対応出来た事を褒めてもらいたい。

「そうなんですね!いやぁ〜、ボランティアで水やりだなんて、素敵ですね明瀬様は!あ、僕、実は本日より初出勤なんですよ!緊張してたので、こうしてお話出来てとても嬉しいです!」

本当に太陽のように明るく、何の裏表もない眩しい笑顔に一葉の心臓がばくんと音を立てた。

「…?」

それが何を指してるのかわからず、小首を傾げる。

「僕は毎日、お昼休みはこの花壇に水やりしますので、また出会えると良いですね!明瀬様が丁寧にしてくれたお陰で、この子達もとても喜んでます!心の優しい方には花は自然と答えてくれます。明瀬様のような方に出会えて、この子達は幸せ者ですね。では校内の点検に行って参りますので、また!」

すくっと立ち上がり、すたすたと歩いて行ってしまった。
自分の容姿を見て、馬鹿っぽい話し方を聞いて、驚く訳でも避難する訳でもなく、更には見惚れる事すらせず、普通に話せたのはいつぶりだろうか。
最初おじさんかと思いきや、肌の質感や纏う空気が予想よりも若く感じられる。
そして何より、未だに心臓がバクバクと音を立てているのは何故なのか。
突然話しかけられ、びっくりしたのかもしれない。
そう思い、一葉は再び水やりを再開するのだった。


2025.04.12

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